ぶす、とふくれた顔をした烈火の名を呼ぶ。
なんだよ、と言われるのでまた同じことを繰り返し言う。
烈火はソファに横になり、首を振ることで拒否の意を伝えてくる。
もう、何度もそれの繰り返し。
隠れ家
烈火が来たのは夕方も少し過ぎたころだった。
怒った顔はいつも見ているが、涙目になる程の怒りを持った烈火を見たのはことはそうそうない。
なので、驚いてどうしたのかと訊く。
すると、父親とケンカしたと忌々しそうに吐き捨てた。
外は雨だったので、恐らく傘も差さずに来ただろう烈火を宥めて風呂に入らせ、自分は夕食の準備をした。
念のため烈火の分も用意したら、烈火は少しほっとした表情でそれを食べた。
食後、落ち着いただろうと烈火に帰るのか泊まるのかを訊くと、大方そうだろうとは思っていたが、泊まると言われる。
そこで私が「なら電話を入れなさい」と言った所で烈火がふてたのだ。
「烈火、みんな心配するだろう?」
「…だって、どうせここにいるって分かってるだろうし」
それは拗ねたような淋しそうな口調で、思わず髪を梳かして宥める。
何度かそれを繰り返すと烈火が口を開いた。
「紅麗は、」
「うん?」
「お、おれが、ここにいたいって、いうのイヤか?」
「…バカなことを言う」
優しく否定してやれば、烈火はまた安堵の息をつく。
もしかしたら、父親とのケンカには私のことが含まれているのかも知れない。
迷惑だろうとか、頻繁に行くなとか。
どちらかというと烈火を引き取って一緒に暮らしたいと思っている上に、実の弟に手を出してる時点で責められるのは私の方なのだけれどそれを知らない烈火の両親(とは言っても義父だか)は仕事に忙しい私を気にしている素振りを偶に会うとする。
「お前がここにいたいなら、一緒に住みたいというのならとても喜ばしいことだ。けれど、まだお前は未成年だろう?母親と暮らし始めたばかりだろう?お前の側にいたいのは私だけではないから今は望まないが私はずっとお前と暮らせたらと思っているよ」
「…ホント、に?」
「本当だ。もし、いつか一緒に暮らせる時が来るかも知れない。その時の為にちゃんと私に信用を持たせてくれ」
「…信用って?」
「私に対する、お前の両親の信用だ」
早いか話しが、私の為にも連絡しろと言うことなのだが、烈火はぽかんとする。
意味が通じなかっただろうかと見つめていると、烈火が抱きついてきた。
ソファに座り直して体勢を落ち着け、烈火を膝に乗せる。
「烈火?」
「オヤジがぁ」
「なんだ?」
「いくら兄弟だからって人様に迷惑かけるなって」
「迷惑だなんて思ってないぞ。私はお前が好きだからな」
「それ、オヤジには言ってないし」
「流石に今は言ってくれるな」
それを言えば、それこそ二度と行くなと言われるだろう。
兄弟で愛し合うなんて異常だ。
血の繋がった母親も、烈火を実の息子のように思って育てたという義父もそれを許すとは思えない。
けれど、隠れるように愛し合うのは烈火にとって苦痛かも知れない。
「…隠すのは辛いか?」
「全然。だけどさ、何かムカツクっつーか」
「なにが」
「知らないクセにって。俺がどんなに紅麗が好きで紅麗がどんなに俺を好きでいてくれるかって知らないのにって」
烈火にとって隠し続けることが苦痛なら手放せるか、という選択肢はとうに消えている。
だから、きっぱりと否定してくれ安心するが、続けられた言葉で更に嬉しくなる。
「それなら、こう言えばいい。“兄弟が仲良くては駄目なのか”」
「…それ言うとどうなんの」
「仲が良いんだと思ってくれるだろう?」
「…それでいいの」
「いいんだよ。そうしたら、きっと私も望んで烈火を家に入れているとわかってくれる」
「…ん、わかった」
伝わるかどうかはわからないが、この言葉の真意を陽炎が理解すれば恐らく烈火を止めることはなくなるだろう。
烈火と違い、私の肉親は弟だけなのだと。
母も父も既にいない世にいるのだと。
だから、私には烈火が必要なのだと。
少々卑怯だし、私をこの世界に飛ばした陽炎を責め立てたりはしたくない。
なぜなら、それによって生き延びることが出来こうして多くの仲間と烈火と共に暮らせているのだから感謝さえしている。
けれど、私から烈火を取り上げようとするのならそうするしかないのだ。
そんな私の画策に気付かない烈火は少し躊躇いながらも実家へと連絡しようと電話機に向う烈火の後ろ姿を満足した思いで眺めた。
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ちょっと腹黒な紅麗兄様。
08/05/06
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