カラフルな愛情
墨村良守は高校生になった。
烏森学園の中等部には給食があるけれど、高等部では弁当持参か食堂、または購買部で購入するという仕組みになっていた。
高校生になって最初の一年、良守は父にお弁当を作ってもらっていた。
良守の父の料理の腕前は言わずもがな、最上級で。
良守はかなり豊かな昼休み生活を送っていたのだ。
しかし、とあることがきっかけで良守は家を出て少し離れたマンションで暮らすことになった。
当然、父がついてくるはずがない。
よって、その食生活が哀れになるのだろうと周囲は、そして本人も思っていた。
のだが。
実家を出てから初めての昼休み、良守はきちんと弁当を持参していた。
「何ソレ」
「お前、作ったのかよ」
良守の教室で開けられた良守の弁当の中身に、中学から仲の良い田端、市ヶ谷は驚く。
ちなみに、三人はバラバラのクラスになったのだけれど昼休みになると良守の教室に集まるか、屋上で弁当を食べるという習慣が続いている。
話を弁当に戻して。
ぱか、とフタが開けられて、田端と市ヶ谷は驚いたが、それ以上に当の本人は固まってしまった。
「お前、一人暮らしだよな?」
「違うよ、市ヶ谷。コイツ確か、七つ離れた兄貴と一緒だよ」
なんで言った覚えがないことをコイツは覚えているんだと、田端の声を聞きながら思うが、それよりも良守は目の前の弁当の可愛らしさにくらくらと眩暈を覚える。
かわいいから、ではなく。
カワイイ弁当を作ったのが、実は自分の兄、正守だということに。
弁当の中身は、ほどよい大きさのおにぎりが四つ。
二つ程雑穀が混ざっているらしく、独特の暗い色をしているが、それが見た目より美味しいことを良守は知っている。恐らくどれか一つくらいには最近の良守のお気に入りの明太子が入っていることだろう。
それら雑穀入りのものと普通の白米のおにぎりが交互に、白と黒が美しく映えるように並べてある。
おかずには、パプリカの炒め物、鮮やかな黄色を放つ玉子焼き、アスパラの豚肉巻き、真っ赤なミニトマトと薄い緑のレタス。
栄養面が考えられたであろう中身と、色鮮やかで、食欲をそそられる見た目。
それは父が作ってくれていた今までの弁当となんら、遜色はなかった。
「なぁなぁ、それ墨村のお兄さんが作ったのか?」
まだ見ぬ良守の兄に興味があるのか、田端がキラキラと輝いた瞳で良守を見つめた。ついでに右手の箸が鉛筆持ちになっていた。箸じゃなんにも書けないだろ、と良守は思う。
「う、ん。兄貴が朝起きたら作ってた」
「すげーなぁ、弟思いじゃん」
「いいなぁ。それ、冷凍物とか全然ないだろ」
「俺の母親なんて冷凍ばっかなのに」
ひたすら感心した眼差しを送られ、気恥ずかしさと照れくささで良守はそれを食べきるまで無言になってしまった。
「ごっそーさん…」
今の自宅に戻り、何故か自分より早く帰っていた兄に、良守は弁当の包みを渡す。
空っぽの中身を見て、兄は嬉しそうに笑った。
「ピーマン嫌いなのに、よく食べたな」
「知ってんなら入れるなよ」
「知らないわけないだろ。お前の身体のことを考えてだよ」
そう言われると反論などできず、良守は弁当箱を洗う兄の後ろで夕食の準備を始めた。
二人で暮らし始めてから、夕食は早く帰った方が作る、二人とも早く帰れた場合は二人でと決めていた。
どちらかが頼り切りにするのではなく、全ての家事を分担するというのが唯一で絶対の決めごとだ。
だけれど、兄は良守の弁当だけは自分が作ると譲らない。
何故だか良守には分からないが、それがくすぐったくて、嬉しくて、そして少し恥ずかしくて理由を聞かないことにしている。
「ああ、良守」
「ん?」
まずはコメを洗おうと、良守が正守と交代でシンクに立とうしたとき、正守が思いだしたように良守を呼ぶ。
なんだと、良守が見上げると兄は先程の笑みを浮かべたまま。
「全部食べたから今日はご褒美したげる」
「したげるって…?」
「だから、ご褒美にすっごく気持ちいいことしてあげる」
「はっ、??えっ!?」
「でも、残したらおかず一品につき罰が一つね。内容は…まぁその時の俺の気分」
「ええ!?」
それって結局、弁当を全部食べても残してもエロイことをされるということなのでは、という結論に達するまで十分ほど、良守は固まっていた。
勿論、理解した後はご褒美の撤回を願い出たが、それが了承されたのかは本人達しか知らないことである。
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日記ネタです。
多分烏森を封印して家を出たんじゃないでしょうか(適当)。
良守の社会勉強という名の、よっし独占だと思います。この先二人はいちゃいちゃする以外することはないだろうなと思います。
ちなみに、玉子焼きは砂糖を入れて甘くするとすんげい黄色になります(ウチの玉子焼き)。
08/03/16
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