泣き子
ふと思いついて実家に戻ってみた。
知らせはしてなかった急な帰省にも拘わらず、良守以外は温かく迎えてくれる。
所謂ツンデレな良守だから、家族の前というのもあるし、勿論俺の普段の態度のせいでもあるからしかたないなと思った。
でも、少し癪だったので夕飯後のお祖父さんを抜かしたデザートタイムで、父さんが席を外したタイミングを見計らい、「お前はツンデレだな」というと、良守はぽかんとした。
利守は少し呆気にとられて、その後けらけらと珍しく笑い転げていた。
9つの弟が知っていて、14の兄が知らないってどうなんだ。
「もっとニュースとか見れば」と言うと、良守はふてくされてしまった。
きっといつか「ツンデレ」の意味が分かった時に喚いてくるんだろうなと思って俺も少し笑った。
そんな日の夜中。
トイレに目が覚めた俺は、自室に戻る時良守の部屋から何か掠れたような呻き声を聞いた。
自慰をするなら結界を張るだろうし、不思議に思いそっと襖を開けると、珍しくお祖父さん除けの結界が張られていない。
呻きが外に聞こえて利守や父さんが起きないよう、代わりに俺が結界を張ってから良守に近付いた。
横向きに寝ている良守の顔を覗き込むと、どうやら魘されて泣いているようで。
普通ここまで魘されたら起きるのではなかろうか、と思う。
暫くそのまま見ていると、良守が盛大に息を吐いて目を開けた。
けれど、完全に覚醒しているわけではないらしく、荒い呼吸のままで動かない。
魘されている間、呼吸が乱れていたのだろう、苦しそうだ。
「良守」
流石に可哀相で、早く現に戻ってこれるように声を掛けた。
すると少し間があいて、良守がそろっと俺を見る。
「あに、き?」
「うん?」
零れていた涙を拭おうと、手を伸ばすと良守の体がびくっと揺れた。
怯えた眼差しは、確か何年も前に見ていたものだ。
じゃあ、良守が魘されたのは。
夢で良守が泣く程恐かったのは。
「チッ」
思わず舌打ちが漏れ、その勢いのまま脇の下に手を入れて、抱き上げると一気に良守が覚醒するけど、まだ現状について行けてないのか変な声を上げただけで抵抗はされない。
そのまま、膝の上に座らせるように、抱きしめる。
「な、なに、なんなんだっ」
息切れをしながらパニックになる良守を抱きしめ、背中を撫でながら宥めてやると事態が飲み込めだしたのか、今度は暴れ出す。
「うるさいよ、まだ夜明け前だよ」
「その夜中になんで兄貴がっ」
「お前が魘されてたから、起こしてやったんじゃないか」
良守の動きがぴたっと止まる。
顔を覗き込むと、下を向かれたので顎を掴んで上を向かせた。
眉を顰めていた良守は嫌がったけれど、何となく当たりがついている俺は意地の悪さを発揮したくなる。
「苦しかっただろ、あんなに泣いて」
「…っ泣いてなんかっ」
「泣いてたよ、ホラ。顔が涙で濡れてる」
目元を擦ってやるのだけど、首を振って嫌がられる。
じゃあ、と目元を今度は舐めた。
ビックリしたらしい良守は俺から離れようとして体が膝からズレ落ちる。
もう一度をそれを抱え直して。
「なんの夢、見たんだ?」
「…見てない」
「嘘」
「嘘じゃねぇ」
こうやって苛めるから怯えられるんだって分かってはいるんだけど。
怯えられると苛めたくなる。
こんなに好きなのに気付いてくれないと。
気付いて貰える態度を出せばいいのに、素直じゃない良守の所為だと責任転嫁をする。
「おまえさー毎日魘されてるわけじゃないんだろ?なんで今日は魘されたの」
「俺が知るわけねぇだろっ」
「でも、夢って深層心理だろ」
一言、聞きたい。
でも、それが何なのかは自分でもよくわからない。
いっそ「嫌わないで」と懇願でもされたら、若しくは全身で、決定的に拒否をされたら気が楽になるのかも知れない。
それでもそんなことをされたら、俺は良守をどうするかわからないのも事実で。
結局、俺はコイツを追い詰める。
「ほら、言って御覧よ。言ったら楽になるよ。おまえが何にそんなに怯えていたのか。何がそんなに恐かったのか。俺に話して御覧」
言えない内容だと、それも俺には絶対言えないとわかっていながら優しく口説くように耳元で囁く。
崩れて情けない顔になっていき、すすり泣きを始めた良守に満足して抱きしめずにはいられない。
「ああ、もう泣くなよ。ほら、俺がいるだろ。恐いことなんかなにもないじゃないか」
ホントは知っている。
コイツが唯一恐れているものは、その俺なのだと言うことを。
------------------------------
多分言われたいのは「好き」だと。
ウチのサイトでは初の黒正です。
そんな大層なことはしてませんが、いじめっ子。
デモ結局両思いなんです。よっちは兄貴のことがではなく、兄貴に嫌われているのが恐くて、でも好きで優しくされて嬉しいんだけど嫌われてるのに、なんで優しいんだよーみたく軽くパニック。
それがわからない兄貴。
泣く良守はかわいいけど、可哀相だなあ…。でも、かわいいです。心底かわいいと思います。いっそ食っちゃいえ、抱きしめてあげたくなる程。
夢の内容は…ご自由にご想像下さいませv
ちなみに、遠夜が「ツンデレ」を知ったのはニュースです。ツンデレ喫茶店。
もっと言えば、一時期流行った「成分解析」で「ツンデレ」を「ツンドラ」と勘違いしてました。
07/10/15
|