土下座





酔っていたとしか言い様がない。



「起きろ、兄貴!起きろってば!」
そんな良守の声がして、うるさいなぁ。昨日酒飲んで遅かったんだよ…っていうか良守の声でかいなあ。
と思って寝返りを打とうと思ったら違和感を感じてぼんやり覚醒に近付いていった。

「兄貴ってば、どけろよっ!」
どけろってなんだよ、ここは…俺の部屋…じゃないな。確か縁側で寝入っていた気がする…。
ええ、もう朝?ってまだなんか暗くないか?

「さっさと起きろ!早くしないと、っつかホントマジで頼むから出てけよ…」
出てけって俺に家を出ろってこと?酷いなあ良守は。っていうかなんか。
あれ、なんでおまえ俺の下にいるの。

「あれ?じゃねぇ!早くどけろ!俺の中から出てけよっ」
おまえの中…。

「ねえ、なんで俺の、おまえの中にあるの?」
「っ…!おまえが入れたんだ!」
「えーっと。あれ、昨日俺が寝てて…夢でおまえが優しくしてくれて…」
「夢じゃねぇよ!つか優しくない、風邪引くから自分の部屋で寝ろって言っただけだ」
「おまえが優しいから夢だって思って…」
「夢じゃねぇってば、この酔っぱらい!」
「あれ、俺、おまえ、あれ?これ、俺まだ夢見てる?」
「夢じゃねえーっ」

ごん、と鈍い音がする程の頭突きを食らわされてすっかり目が覚めました。
そんで急いで良守の中から出ていって良守に俺の羽織をかけて、俺は土下座。
縁側で素っ裸の良守の身体には夜明け前でも確認できる程赤い痕がたくさんあって、そんで俺と良守は白い液体にまみれていて。
いや、それよりもなによりもさっきまで良守のソコに俺のアレが入っていたことがもう間違いなく。

「本当にでごめん。夢だと思って…」

ヤっちゃいました。実の弟を。
いや、実の弟を抱きたかったのは随分前からだったけれどそんなことできるわけなくて、だからずっとなんでもないフリをしていたのだけれど。
昨日は綺麗な月に酒が進んで、寝入ってた処を良守が割と優しく(当社比)心配してくれたものだから夢だと思って。
夢ならいいや、折角優しいしキスして良いかなと思って。
好きだの可愛いだの言いまくってキスをして、まだ中学生の良守はそれだけでくたっとして抵抗も小さくて(俺にしてみれば本気の抵抗でも軽く押さえれるだろうけれど)、だからそのまま抱きたくなって体中にキスしたり舐めたり弄ったりして最後までヤっちゃって。
で、そこから記憶がないんですが。

「だから、おまえ寝たんだよ。俺も気を失ってからよくわかんねえけど…朝までに起きなかったらどうするつもりだったんだよ、父さんとか利守とか、いやジジィが一番朝は早いか。心臓発作で死ぬぞ」
「いや、酔ってたからさっぱり考えてなくて…ゴメン」

ああ情けない。
誰よりも欲しくてずっと抱きたかった相手を初めて抱いたのが酒の間違いか。オイオイ自分。

「その、ホントに申し訳ない」
「それはもう後でいいから、風呂とか、ここの片づけとか!いつまでも裸でいるんじゃねぇよ」
「あ、立て…ないよな…」
「下半身麻痺してるみたいだっての。風呂場まで運べ」

良守の言うとおり、式を出して片づけを頼み、着物を軽く羽織って良守を抱えて風呂場まで運ぶ。
さっきまで俺が中に入ってたので当然俺の出したものもまだ入っているわけで、それはやっぱり出さないといけない。
それを良守に伝えると嫌な顔をしたけれど出さないと多分腹を壊すと伝えれば頷いたので、俺が手を出すとはたかれた。
言っても聞かないのはいつものことなので、良守の喚く声が漏れないように風呂場を覆う防音の結界を張る。
それから立てない良守の脇を抱えて俺の膝に座らせた。勿論嫌がられたけれど、ごめんと言って顔見たかったけれど抱き寄せて顔が見えないようにしてから良守の中に指を出来るだけ刺激のないように入れて中身を掻き出した。
間近で聞こえてきた呻き声になんだか変な気分になったけれどそこはぐっと抑えてごめんね、と繰り返す。掴まれた腕に爪を立てられ罪悪感に少し胸が痛む。
記憶は霞掛かってあまりはっきりと覚えてないのだけれど、何回かしてしまったのか量が結構多くて出すのに時間が掛かった。
掻き出して軽く入り口付近を洗って、大丈夫?と訊くと良守が小さく頷いたけれど、ぐったりしていたのでそのまま良守の身体と頭を洗って遣って、それから自分の身体も洗う。
風呂場から出て、しっかりと良守の身体から水気を拭き取り、けれどそろそろ夜明けなので自分は適当にしようとしていたら良守から怒られたので一応廊下が濡れない程度にして、良守を抱き上げ良守の部屋へ向かった。
それからどんなに怒鳴られてもいいように防音の結界を張る。
引いてあった昨日使われていない布団を見て、また胸が痛んだがそれに構わず良守を布団の上にそっと下ろすとパジャマ、と言われたので言われたタンスの引き出しから下着と寝間着を出して着せてやる。
なんとなく、良守の態度が合意なく襲われた人間のそれには思えなくて、わかってるのかなと思う。
寧ろわがままで甘える弟のようで、それはそれで新鮮なのだけれど。普通なら顔見たくないとかどっかいけとか言われるものじゃないだろうか。他に誰か合意なく襲ったことがないからよくわからないけれど。

「本当にごめん。謝ってすむことじゃないのはわかってるけど、ごめん」

タオルでゴシゴシ良守の頭を拭きながら謝ると、良守は困惑した顔つきになる。
どうしてそんな顔をおまえがするかな。もっと怒ればいいのに。拒絶して怒鳴ればいいのに。
俺が好きだとか沢山言ったから、気を遣っているのだろうか。

「あ、謝るな」
「え?」
「だから、謝るなっての!」

言っている意味がよく分からず、手が止まって思わず良守の顔を凝視する。
すると良守は顔を赤くして、下を向いた。

「良守?」
「お、おまえ、俺を好きなんだろ?」
「好きだよ、でもだからってそれは許される理由じゃない」
「別に許すなんて言ってねぇ」
「そうだよな、うん。謝ってすむ問題じゃないもんな。もう帰ってこないよ」

やはり拒絶か、と安心しながらも落胆するという妙な気分で良守の頭から手を放すと、良守が顔を上げて違うと怒鳴った。
少し泣きそうな顔で、だからなんでおまえがそんな顔をするんだってば。
良守が何を言いたいのか分からないので黙っていると、良守がやっぱり泣きそうな顔で。

「お、俺を口説けよ」

と言ったので、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
良守は自分が言った台詞が恥ずかしかったのか、だから、と半ば怒鳴るように言う。

「俺が納得できるように、俺のことがどれだけどんな風に好きなのか言えって言ってんの!」
「納得できたら、俺のことを許すのか?良守、それは優しいを通り越してお人好しなんじゃないか。俺が言うのもなんだけどさ、おまえ、今までよく妖につけいれられなかったな」
「付け入れられたから時音がケガしたんだよっ!や、それは今関係ねぇし!」
「駄目だよ、良守。もう少しおまえは他人に厳しくならないと」
「説教すんな!口説けって言ってんだよ!」
「口説いたら口説かれてくれるのか?」
「内容による!」
「マジで言ってる?」
「マジだ!」

段々明るくなってきたから、良守の顔が結構赤らんでいるのが見えた。
目の縁に涙が浮かびながらも、真剣に言っている様子に俺は溜め息を吐いて良守を抱き寄せる。嫌かどうかを訊くと嫌じゃないと言われた。

「おまえさー自分で言ってることわかってんの?」
「わかってる」
「後悔してもしらないからな。俺がどれだけおまえのことが好きかって?そうだな、烏森も家も全部壊しておまえだけどっかに連れ去りたいくらい欲しいよ」
「っ…」
「訊いて後悔したろ」
「してねぇっ」
「ふーん。どういう風に好きかなんて一言で言えないけど、そうだなぁ。おまえの右手に方印がなかったら普通の兄弟だっただろうな」

方印、と言うと良守の身体がビクついた。
ああ、まだ気にしてたのか。そうだよな、気にしないわけがない。もっとも、俺とおまえじゃその意味が違う。

「おまえも利守がいるからわかると思うけど、年の離れた弟ってすごくかわいいだろ?それもおまえはさ、いっつも母さんがいないし、父さんは家事で忙しいせい兄ちゃん兄ちゃんって追いかけてきて。良守の世界は俺だけなのかもしれないって思ったらすごく愛しくてさ。だから方印なんてどうでもよかったんだよ。あろうとなかろうとおまえは俺のだったんだから。でも、おまえが方印の意味を知りだしたらそうじゃなくなった。おまえは烏森のものだって突きつけられて。だから良守を正統継承者として独り立ちさせないとって思っても心配だし手放したくないのに、7歳でおまえは烏森のものになったんだ。たった7年だよ、おまえが俺のものだったのは。悔しいから利守を可愛がっても、可愛いんだけどおまえと何かが違うし。多分利守の世界には最初からおまえもいたからだろうね。だから余計におまえに執着しちゃって自分でもどうしようもないくらいだよ。だから、良守以外はなにもいらないくらい欲しい。良守の世界が俺だけになればいいのに、昔みたいに俺だけでって思うよ。だって、俺にはおまえ以外の存在理由なんてないんだから」

溜まりに溜まっていた感情をつらつらと述べていると、いつの間にか俺の着物の袖を掴んでいた良守の手が震えていることに気付く。
顔は伏せられていたので見えなかったけれど、髪の毛の合間から見える耳が真っ赤でかわいいなと思う。これを見るのも最初で最後かもしれないとも。
ちょっと言い過ぎたかな、中学生だしなぁ重いよなぁと思ってると、なにか良守がぼそりと言った。

「え?」
「なんか一杯言われすぎてよくわかんねぇんだけど」
「ええっ」

一生言わないでおこうと思っていたことを言ったのに、よくわからないって。引かれないだけマシなのかもしれないけど、わかんないって、ええ俺にどうしろと。
硬直した俺に気付いたのか気付いていないのか、良守はそのまま続けた。

「でも、俺、その、う、うれしかったっていうか…」
「え?」

ぎゅ、と着物を掴まれ未だ上げられない顔がどんな表情なのかを見ようと凝視するが良守は顔を伏せたまま。
それでも耳は真っ赤で、良守の言葉に嘘はないことが分かる。

「く、口説かれてやってもいいぞ」
「よ、良守っ!?」
「んだよ!嫌なのかよ!?」
「嫌じゃないって言うか寧ろ嬉しいけど、おまえわかってる?口説かれるって、その、俺がおまえにしたことをこれからもしていいよって言ってるんだぞ、それ」
「わかってるってば!」
「おまえ、俺のこと、俺と同じ意味で好きなんじゃないだろ?」
「違うけど、だって兄貴が俺のこと好きでそうしたいならいいって思ったんだよ。悪ぃかよこのヤロウ」
「悪いかよって…」

悪いだろ、と言うのをすんでの所で飲み込んで、良守の顔を両手で挟み上を向かせる。
良守の顔はやっぱり赤くて、目の縁には涙も溜まっていて。
耐えられなくなったのか目をそらされたので、良守、と呼ぶと暫く彷徨った瞳がこちらを向く。
そんな顔されたら、手放したくなくなる。

「俺にとっては悪いどころか大歓迎だが…兄としては間違った道に引き寄せるのはやっぱり悪いだろうな」
「んだよっやることやっといて今更兄貴面すんなよ!」

もっともな台詞に、苦笑する。
兄弟なのに、だとか、男同士だとかそんな常識が通用する人間だったら、ハナから俺は良守に執着していない。
だから、躊躇っているのは怖いだけ。
良守が正気に戻った時、俺は。
俺が壊れるだけならマシだ。良守を道連れにするかもしれない。
それが怖い。
けれど、鴨が葱を背負ってるだけじゃなくさらに手招きしてるんだから俺に逆らう術などないじゃないか。
例えそれが、戻れない道だとしても。

「もう一度だけ訊くぞ。おまえが俺の手を取るのなら、俺は例えおまえを地獄に引きずり込むことになっても離せない。それでも口説かれてくれるのか」
「なんかよくわかんねぇけど…地獄に落ちなきゃいいじゃん」
「いいじゃんって…」
「絶対地獄に落ちるって決まってんのか?」
「さあ…俺達次第かな…」

ホントに良守には敵わない。
わからないクセに、絶対俺を上回る答えを用意するのだ。いつだって、そうなのだ。
狡い奴だ。
なんだかおかしくなって、良守の頬から両手を離して抱きしめる。

「じゃあ、責任取って幸せにするので口説かれてください。好きだよ、良守」
「おう。責任持って幸せにしやがれ」

俺はその言葉に生まれて初めて満たされた気がした。
嬉しくてそのまま抱きしめていると、寝息が聞こえはじめたので良守の顔を見ると寝入っていた。
外はもう明るい。
今日が休日で良かったなと思いつつ、自分も眠くなるがこの部屋で寝るわけにはいかないので良守を布団に入れて俺は自室に戻ろうとして立ち止まる。
良守が起きた時ちゃんと覚えているか不安だったので、良守を囲むだけのサイズの結界を張る。多分良守が触れれば俺のものだと気付くだろう。

起きたときなんて言うだろうか。どんな表情をしてくれるだろうか。
身体が大変そうだけど、体力があるから大丈夫だろう、きっと。
次はいつ抱かせてくれるかな。酒の所為であまり覚えてないけれど、早くあの体温が自分のものになったと実感したい。
そんなことをつらつらと考えていると、俺もすぐに夢の世界の住人へとなった。


少し赤い顔をした良守が照れ隠しで怒鳴り起こしてくれるのは、数時間後のこと。












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ギャグのつもりが…なぜに。
まぁ、幸せそうな正良なのでいいかと。
消えたとか色々あって結構時間掛かったのでログ扱いは勿体ないですが。




2007/08/27

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