約束 その後 眩しい光で目が覚めた。 重たい身体を持ち上げると、そこは俺の部屋だった。 実家にある、なにもものがない俺の部屋。 なんでここに、と思ったが直ぐに理由に思い至る。 気を失ったからだ。 蜈蚣が運んだんだんだろうか。 自分の身体を見てみると、新しい寝間着で、どうやら身体も綺麗に拭かれているらしかった。 多分父さんがしてくれたんだろう。 いつもなら早く夜行に戻りたいと思うのだろうけれど。 昨日のことがあったためか、気分は落ち着いている。 取り敢えずおじいさんと父さんに挨拶にいくか。 そう思って立ち上がろうとしたら、がらっと扉が開いて。 「あ、もう大丈夫か?」 良守が来た。 良守は俺の着替えらしい着物を持っていた。 けれどそれは夜行の服ではなく、普通のものだった。 「ああ。世話かけたな」 「全くだよ。めちゃくちゃ重かったし」 「スマンスマン。あ、蜈蚣は?」 「一緒に泊まった。今じじぃの将棋の相手してる」 「へぇ。あいつ将棋できたんだ」 今度相手をさせよう、と密かに思う。 「なぁ、良守。俺の着物は?」 「洗濯してるっつーの。汗くさかったんだからな」 「…困ったな」 「何がだよ」 「いや、だって夜行に帰るには…」 「……乾くくらいまで待てねぇのかよ」 少し拗ねたような言いぐさの良守に、ん?と視線を下ろす。 なんだろう。 「……別に、いいけどよ」 「なにが?」 「……」 あ、ホントに拗ねた。 いつも拗ねてるけれど、なんかかわいい。 これも俺の心境の変化の所為だろうか。 いつもよりもっとかわいく見える。 年相応な、弟を久しぶりに見たような気がする。 俺の顔がにやけたらしく、良守が睨んでくる。 「なんだよ、歩けるんならメシ食いに行けよ」 「なあ、なんで拗ねてるんだ?」 「拗ねてねぇっ」 「じゃあ、なんで怒ってんだ?」 俺に背を向けた良守の肩を少しだけつかむ。 力をい得れればふりほどける程の力で。 良守がふりほどかないから、もう少し力を入れてこちらを向かせる。 すると、良守の顔は下を向いた。 「良守?」 「お、」 「ん?」 「お前ん家はここだろーが!バーカ!」 そう叫ぶと、良守は逃げるように走り去った。 少し長くてぼさぼさな髪の毛の間から見える小さな耳は。 真っ赤だった。 「ククっホントか、かわいーヤツ…」 これからは、もう少しだけ。 家に帰る頻度があがるかも、と俺は思った。 ------------------------------ 夜行に帰りたがっている兄が嫌な弟です。 165話後、こうなったらいいなぁという妄想から、兄視点でssです。 166話から、兄は夜行に帰っちゃったらしいのでおまけとして日記から再録しました。 07/05/10 初稿 07/05/17 改訂

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