望月




様子を見に行った烏森で、いつもと違う光景を見た。
良守は仕事が終わった後一人、結界で空高く登っていた。
斑尾もついてきてないと言うことは、仕事とは全く関係ないのだろう。
しばらく気配を消して様子を見ていると、なにやら結界の上で自作のケーキでも食べているようだった。
太るぞ、と思っていると携帯にメールの着信が入った。
良守からで、開けてみるとだた一枚の画像があるだけだった。
真っ黒の中に丸くて色の濃い月が一つ。
空を見ると色がよく似た月があった。今日は満月だ。
弟に月見なんて洒落た趣味があったのだろうか、と考える。
するとちがうものを思い出した。
たしか、随分昔こんなやりとりがあった。



「にいちゃん、月ばっか見てる」
「…そうか?」

月を見ているという意識がなかった為、言われたことは意外に満ちていた。
けれど、そういえば夜は上ばかり見ている気がする。
意識になさすぎてどうしてだろう、と自分でも理由がわからなかった。

「月、好き?」
「嫌いだよ。だって、月が丸いと妖が増えるからね」
「そうなの?」
「ああ、満月に魅せられる類のが増える。逆に新月の時に活発になるのもいるけど」
「へぇー」
「良守も覚えてろよ」
「うん。でもおれは月が好き」
「なんで?」
「にいちゃんみたいだもん」
「…なにが?」
「いっつも、空見たらいるから」

それからかなり経って、額に月の形にケガの痕をこさえて戻ると良守は一瞬だけ目を見張って、「お似合いだ」なんて減らず口を聞いた。
生意気だなって思ったけれど、良守はどういうつもりだったのだろうか。
今ならなんとなく、わかる気がした。

「俺が、月ねぇ…」

気配を消したまま、良守の結界に後ろから近付く。
声をかけたら驚くだろう。
真っ赤になるだろう弟にメールの真意を問い質したらきっともっと慌てるだろう。
そんなことを楽しみに思いながら、良守、と名を呼んだ。









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月→いっつもそこにある→いっつもストーカーしている兄とか。
…良守的にはいっつも心の中にある兄貴。忘れられないという意味。
いっつも俺の中にいるんだっていう無意識らぶれたー(マジで無意識です)。そんなよっちがかわいい正守でした。
2007/09/09

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