織り目
暗い、一室。
正守の部屋、二人は布団の上で正座して向き合っていた。
良守は勿論、正守も額に汗を垂らす程緊張している。
兄の緊張した姿など記憶に何度かしか残っていないくらい、珍しくて。
けれど、余計にそれで良守も緊張する。
第一声を発したのは、良守だった。
「……いつまで、こうしてんだよ…」
「いや……うん。どうしようって混乱してる」
「すんなよ。おまえがそんなんだと余計俺もおかしくなるじゃんっ」
「そうなんだけどね…予測不可能な事態って慣れきってると思ったんだけど」
駄目だねー俺もまだまだ、と正守は力なく笑う。
二人に何が起こったかというと、単純なことである。
兄弟から恋人と呼べる間柄になったのだ。
7つの年の差、跡目問題、兄の喪失、何よりも烏森という二人の間を引き裂いた存在。
全てが彼らの中で複雑に絡み合い、できあがった織り目は深い愛情という模様を創り出していた。
それは普通の兄弟の間に生まれるものではない。
執着にも似たそれに彼らはお互い素知らぬふりをしていたが、互い求め合っていることにふとした瞬間気付いた。
気付いたが最後。もう、自分の気持ちを無視できない。
その結果が、布団の上で正座である。
「…ね、良守。触っていい?」
「…きくなっ」
「だって、まだ信じれないっていうかさ…」
「……」
和装で、坊主で、ひげ面で、長身で、普段はどっかの若頭と間違えられそうな兄の弱気な表情に、良守は。
キレた。
がし、と両手で正守の両手を握り、きっと下から正守を睨み上げる。
驚いて一瞬動きの止まった正守めがけて、頭突き…ではなく触れるだけのキスをしてぱっと離れた。
勢いだけがすごくて、がち、と歯が当たった衝撃にお互い口元を抑える。
けれど、それは痛いだけだからではない。
「……よし、もり」
「うっせ、バカ」
「俺まだなにも言ってないのに」
口元から手を放すと、正守はそっと良守を引き寄せ、抱きしめる。
そしてヒヒ、といつもの笑いをした。
「先越された」
「おまえがチンタラしてるからだっ」
「もっかいちゃんとキス、させて」
「だから、訊くなよ!」
「じゃあ」
そっと、頬に手を掛けて上を向かせると良守の唇は真横にグッと引き締められている。
正守がそれじゃキスできないよ、と言えばむくれる。
目を瞑ってと言えば、素直に瞼を落とす。
全てがかわいらしいから、正守は自分を抑制できるかなとぼんやり思いながら改めキスをした。
子どもだからか、しっとりとした柔らかい唇に触れ、少し経ってから少しだけ距離を作ると良守が目を開けた。
言葉はなかったけれど、もっとしてほしいのだと正守は理解して少し深く重ねる。
するとムズムズしてきて、良守の唇を舐めると良守の身体が震えた。
それを押さえつけ、後頭部に手を回して良守の口内へ舌をそろっと潜り込ませる。
逃げらる身体を後頭部に添えている手に力を込めることで防ぎながら、同じように逃げる舌を追っていると良守が背中を叩いた。
惜しく思いながら離れると、濡れた唇を押さえながら良守がうるんだ瞳で正守を睨む。
それにすら、正守の身体は疼いた。
「こ、こんなのするって言ってない!」
「でも、さっき『ちゃんと』って言ったでしょ」
「っ!」
「じゃあ、もっかいやり直し」
「さっきも『もっかい』って!」
「だって、先にキスしたの良守だよ?」
ぐ、と良守が呻いた。
この先に進みたいのは山々なのだけれど、焦らない方がいいのだろうと正守は急く気持ちを精一杯抑えつける。
「ね、今日は一緒に寝よう」
「……」
「あ、変な意味じゃなくてね一緒の布団で寝るだけ」
「へ、へんてっ」
しない、って言ってるのに慌て出す良守を押し倒して、布団の中に潜り込む。
すると、大人しくなって良守は正守の腕の中で居心地のイイ場所を探して、結局胸元へ顔を押し付けるように落ち着いた。
妙に高鳴る心臓の音に、思春期みたいだと正守は苦笑する。
けれど、触れた所から感じる良守の体温の高さに安心もする。
それは良守も同じようで、ぎゅうぎゅうと正守に抱きつく。
二人は思う。
やっと、満たされたのだと。
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正座して向かい合う兄弟を思いついたので。
最初を思いついて書き始めるとオチにいつも困ります…オチから思いついたら楽なのになー…。
つか、また兄貴ヘタレだしっ
でも、最近わかりました。
よっちは愛しいから苛めたくない。兄貴は好きだから苛めたい。
愛のあるイジメです。兄貴には★
2007/09/15
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