水中
ちゃぷん、と音がした。
その方向を見ると、兄貴が廊下で庭を見ながら酒を飲み、黒姫とかいう兄貴の「相棒」がどこからともなく現れては水音と共に姿を消していた。
なぜこんなところで酒を飲んでいるのか。
庭を見ると、黒姫が池の上を跳ねていて、ああ、コイツも魚なのかとなんだか納得した。
ほっといて自室に戻ろうとしたら声を掛けられる。
黙って兄貴を見るとご機嫌のようだった。
「酒、飲む?」
「……未成年に勧めるな」
「嫌いなのか?」
「だから、そーゆー問題じゃない」
少し怒り気味に言うと、兄貴がははは、と笑って手招きをした。
それと同時に黒姫がまたチャプン、と水音を立てる。
「黒姫がね、おまえのこと好きだって言ってるよ」
「…はぁ?」
思わず兄貴の周りを泳いでいる魚を見る。
表情なんて全くないし、あったとしてもきっと兄貴と同じように俺には悟れない。
「…そいつ、なに」
「俺の相棒」
「それはわかってるけど」
「んー俺の力を具現化してみたらそれに人格がついちゃった、みたいな」
「みたいなって…」
「裏会ってこういうの連れてる異能者が多くてさー俺もやってみたらできた」
「…できたって…それ、簡単にできるもん?」
「いや?まぁ俺が優れた結界師だからな」
「……言ってろ」
酔っぱらいの自慢話はタチが悪い。
そう思って踵を返そうとすると、足元から嫌な気配に全身が包まれた。
これは、兄貴の。
驚いてふり返る前に黒姫が俺の顔の横にいた。
汗が、一筋流れる。
「…あにき、」
「黒姫がおまえのこともっと近くで見たいって」
なんとなく、理解する。
この空間は兄貴の空間なのだ。
だから俺は気持ちが悪い、のだ。
「黒姫はね、俺から生まれたから思考回路も俺と同じ」
「…?」
「欲しくてたまらないんだって、おまえが」
「っ…」
「でも、駄目。いくら黒姫でも良守はあげない」
兄貴がそう言うと黒姫が、床の中へ消えた。
兄貴はまだ、機嫌の良い様子だった。
けれど、目は笑ってない。
「おいでよ、月を一緒に見よう」
月なんかもう見ないクセに。
言いたくて言えなかった言葉を飲み込んで、俺の足は兄貴の言葉に従った。
だってここは、兄貴の空間。
俺は、逆らえない、空間なのだ。
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あれ?バカっぽい話が変な方向に…。
初めて黒っぽい兄貴を書けましたっ嬉しいなぁ…偶然だけど。
2007/09/18
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