雨
雨の中妖と格闘して、良守はずぶぬれの泥だらけで帰宅した。
ついでに泥も落としたくて、雨に濡れたまま歩いて。
風邪引くかなぁとぼんやり玄関を開けた。
「おかえり」
「ひっ」
玄関を開けると電気もつけず兄である正守が座って待っていた。
良守を待っていた、ようである。
「酷いな、兄貴に向かって」
「だ、だって!電気くらいつけろよっ」
帰省中の正守はどうやら雨に濡れて帰って来る弟がわかっていたのか、手元に数枚のタオルを用意していた。
ぱち、と正守が電気をつけ良守が玄関に天穴を立てかける。
無言で来い、と言われた気がして良守は素直に正守の元へ歩いていく。
床に敷かれたタオルに濡れた足を置き、正守をうかがうと少し怒ったような顔をしていた。
「おまえ、雨の度にこんなに濡れて、泥だらけなのか」
「だって、戦ってんだからしょうがないだろ」
「どうせ時音ちゃんは濡れてもないんだろ」
「なんで時音を出すんだよ。そりゃ、俺は下手くそだけど…」
「そうじゃない」
何が違うのか、と思い兄の顔を見るがぱさ、とタオルを頭にかぶせられる。
強く拭かれて良守は唸る。
「いいよ、風呂入るんだから」
「おまえは」
「え?」
する、と腰ひもを解かれ良守は慌ててタオルの隙間から正守を見る。
怒った顔はそのままだったので、嫌な予感に正守の手を掴んだ。
「兄貴、」
「脱がないと、風呂場まで廊下が濡れるだろ」
「あ、で、でも」
いくら夜で兄以外が見ていないとしても玄関から廊下まで下着のみで歩くのはなんとなく嫌な気がして良守は首を振る。
それでも正守は次々と良守の着物を脱がしていった。
下着一枚になった所で、大きめのタオルを肩から掛けられる。
それから抱きかかえられた。
「兄貴!」
「うるさい」
「離せって!」
「泥だらけだし家を汚すだろ」
「後で拭くからっ」
喚く良守を余所に、正守は良守を放り投げるように風呂場へ入れた。
一体何なんだ、と良守は軽くパニックである。
けれど、風呂場のガラス戸の向こうから正守が。
「……もう少し、自分のことを考えてくれ」
それだけ言って、正守は出て行った。
温かい湯気が満ちた風呂場の床に、良守は力が抜けた身体で座り放心する。
あれは、一体誰だったんだろうかと。
夢でも見ているんじゃないだろうかと。
心配、されたのだろうか。そう思うと何故か良守の頬が赤く染まっていく。
それを自覚して良守はお湯を頭から被るが、体温を上げるだけで何の効果もない。
…お礼、言わなきゃ。
そう思いながら、良守は嬉しさを押さえることに必死になってしまった。
しかし、風呂から上がった良守を待ち受けていたのは。
睡眠時間を大幅に削った正守の説教だった。
心配されていることは確かなのだけれど、説教嫌いな良守はやっぱりアレは夢か何かだったのだと思った。
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多分せっくちゅはしている兄弟だと思います。
2007/09/30
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