しぬな
俺は死ぬらしい。
急に苦しくなって倒れた俺は、気付くと実家に寝ころばされていた。
目を覚ますと周りには家族と大勢の部下が。
皆、神妙な面持ちだった。
死ぬんだ。
それだけが漠然と理解できた。
身体を起こすことが出来ない程、衰弱しているようで。
やっとのことで良守を探すと怒ったような顔をしていた。
なんで、そんな顔。
目が合うと良守はぐ、と唇を一文字に引き締める。
死ぬんだったら、最後くらい笑った顔が見たい。最後くらい。
最後の気力を使って、良守に腕を伸ばす。
それを見た良守は、慌てて俺の手を握った。
ああ、何を言おう。言いたいことがたくさんあり過ぎる。もっと沢山喋れば好かった。
もっとおまえと話したかった。先延ばしなんかしなければ好かった。
どうしてずっと、闘いの中に身を置きながらいつかの未来を夢見れたのだろう。
死ぬ覚悟なんてしていたはずなのに、死ぬつもりなどなかったなんて。
「よしもり」
「なんだよ、」
名を呼ぶと良守の眉がへの字に下がる。泣きそうだ。泣くな。
笑ってよ。
「おれは、おまえがだいすき、だから」
「…っ」
「なくな。わらえ。おれのためになかないでくれ」
「ぅうっ…」
良守は泣き崩れる。あーあ。これじゃ最後に見た顔が泣き顔じゃないか。お前の笑顔、見れないじゃないか。
だんだん、良守の泣き声が大きくなり、それに反比例するように意識が遠くなる。
泣くな。俺がいなくなったら誰がおまえを抱きしめるんだ。泣くな。
「死ぬなーーーーっ」
真横で出された大声に、心臓が飛び出る程驚く。
がば、と起きあがり夢だったのか、と激しい鼓動の中、安心した。
死ぬって、サイアクだな。なんなんだ、一体。
と、思ってふと、心臓の激しい鼓動だけじゃなくて耳鳴りもしていることに気付く。
アレは夢だったはずだけど、耳鳴りはなんでだ…と答えは簡単だった。
良守が泣きながら眠っていた。
どうやら良守の寝言らしい。
しかし、タイミングが良すぎる。
「良守、起きろ」
「う、ぅ…」
声を掛けると涙を流し、固く瞑られていた瞼が微かに開いた。
縮こまっている良守はしばらくぼんやりと夢現の世界を彷徨い、ぱちりと音がしそうな程勢いよく目を開ける。
そして、俺と同じくらい勢いよく起きあがった。
「兄貴っ!?」
「なんだ?」
「死んじゃだめだ!」
「………」
泣きはらした目で必死に言った良守は、黙っている俺を見て首を傾げる。くそう、かわいいなコイツ。
「……夢?」
「夢、だな」
「……ホントに?兄貴死んでねぇ?」
「一応まだ心臓は動いているぞ」
よかった、と良守が息を吐く。
どうやら良守は俺が死ぬ夢を見たらしい。
俺の夢の中で、良守は泣いた。
今、目の前にいる良守は俺が死ぬ夢を見て泣いた。
これってなんていうんだっけ。
忘れたけれど、どうしてだか夢が混じったらしい。霊力が強い者同士だからそういうこともあるのかもしれないな。
と、すると、あの良守はきっと本人の行動そのままなのだろう。
なんだか嬉しくて、笑いながら良守を布団に押し倒す。
「あ、あにき?」
「俺もさぁ。夢見たよ。俺が死んでお前が泣くの。泣くなって言っても泣くんだよ。最期くらい笑顔が見たいのに」
「……なに、それ」
「混じったんだよ。俺とお前の夢が」
「…そういや…兄貴が笑えって…言った」
「うん。笑ってよ。俺が死ぬ時は」
「……ざけんなよ、笑えるかよっ」
良守が、泣き声混じりで言う。
それだけでも、天にも昇れる程嬉しい。
酷い兄貴でごめんな、と思いながら良守の頭を撫でる。
「泣くなよ」
「うっせー泣かせてんのはテメェだっ」
「だって、死ぬって思ったらホントに、笑って欲しかったんだって」
「……俺より、先に死ぬな」
「…そりゃ、無茶だろ。順番で俺が先」
「そんなんわかんねぇだろっ」
「わかんないけど、俺が先」
「何で!」
「だって、お前が死ぬ処なんて見たくないよ」
できるだけ優しく言うと、良守が黙る。
けれど、直ぐうなり始めた。
「俺も、嫌だ」
「いやだって言われても」
「嫌だって言ったら嫌なんだよっ」
「んーじゃあ、一緒に死のうか」
「それはそれで嫌だ」
「……酷いよ、良守」
「うっせ」
くすくすと笑うと、良守が俺の胸元に顔を埋める。
寝間着を着ていなかったので、良守の瞳に残っていた涙が触れて少し冷たい。
「じゃあ、さ。先に死んだ方が残った方に取り憑くってのは?」
「は?」
「だって、死んでも成仏しなきゃ一緒にいられるだろ」
「…じゃ、そうする」
「いいの?」
「テメェが提案したんだろ」
「はは、そうだな」
同意してくれるとは思わなかったので思わず苦笑する。
それに気付いた良守がまた唸ったけれど、あくびをしたので夜だったことを思い出す。
「眠いだろ、もっかい寝ろよ」
「…今度は死ぬ夢見るなよ」
「や、どっちの夢かわかんないからなぁ」
「俺は絶対、見ねえもん。あんなの、二度と嫌だ」
「…おまえって」
かわいすぎる。
「よしもり」
「ん…?」
「もっかい、したい」
「は?」
「ほら、疲れるまでヤったら夢なんか見ないって」
「や、ヤったけど見たじゃねぇか」
「足りなかったってことで」
ぎゃーぎゃー喚いて抵抗する良守の口を塞ぎ、弱い所を何度か撫でるだけで良守は大人しくなる。
こういうなだれ込みはもうお手のものだ。
良守の忙しない呼吸と体温に急激に興奮度を増していきながら、先程の良守の言葉を思い出す。
死ぬな、はともかく「俺より」がつくなんて。
ああ、かわいい。いとおしい。
でも、先に死ぬのは絶対俺だ。だって、泣き顔でも良いから良守に悲しんで貰った上に、取り憑けば笑顔も見れる。一石二鳥じゃないか。
なんて良守が怒りそうなことを思ったのは秘密である。
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「死ぬなっ」と泣きわめく良守が書きたかったのです。
多分ここはどっか実家でも夜行でもない所で、良守を連れ込んでるんだと思います。
じゃないと朝まで一緒にいられないので。叫べないし。
いっそ二人で暮らせばいいのに。
夢が混じったのはGS最終回ネタです、あれ好きなのです。
2007/10/01
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