水たまり




雨が降っている。
秋雨は寒くて嫌だと、誰かが言っていたのを正守は思い出した。
誰かとは、覚えていない誰かではなく思い出したくないだけだから「誰か」としているが。
実際は忘れることなどできない程正守の脳を支配して離れない弟だった。

彼は子どもらしい子どもだった。
雨というのは子どもにとっては非日常である。
非日常で遊ぶのは子どものうちにしかできない。
墨村家というものが非日常であるから、そんなことで騒げるのはなおさら子どもの頃だけだ。
現に、今の彼は雨が嫌いだ。
それは仕事の邪魔になるから。
特に秋から冬の間の雨は体力を奪い、体調が崩れる。
一日だって仕事を休めない結界師には、雨は邪魔なものでしかない。

しかし、子どもの頃は違った。
彼は幼い頃から修行の毎日で、友達と遊ぶことがほとんどなかった。
こっそり隣の幼馴染みと遊ぶことはあっても、祖父の目を盗んで、というのは子どもながら窮屈だっただろう。
だから、兄が出かけようとすればついて行こうとしたし、雨や雪で遊ぶことを喜んでいた。
それくらいしか、許されていなかったのだから仕方がない。

可哀相に、と思うが自分だってそうだったのに苦痛なんてなかったのは何故だろうと正守は思う。
良守が産まれるまで7年間、跡取りとして育てられ、方印がないため、繁守の態度は彼へより正守に対しての方が厳しかった。それは烏森で死なない為だし、そのおかげでこうやって結界師として生きていられるのだから正守に不満は一切ない。

どのみち、正守には結界師以外の人生なんて選べなかったのだから、彼のように遊ぶ必要性も感じなかった。
そこが彼と自分の違いかもしれない。
彼はきっと将来だとか、生きる道だとか考えていない。
ただ、「烏森の封印」が今の目標なだけ。その後なんて考えない、いや考えないのではなく考えられない。
考える必要がない。
跡取りだから、という理由ではなく、そういう人間なのだ。
彼にとって今すべきこと、が最優先事項なのだ。
きっと、烏森を封印したら、すぐ次に進むだろう。それがどんな道かは、その時の彼しか知らない。
そんな彼が正守にはとても眩しく感じられる。

黒姫が正守の影から出たがっていたので、正守は影を広げてやった。
すると黒姫は雨にじゃれるように跳ねる。
無邪気なその様子は、とても自分の分身には見えないな、と正守は苦笑した。
その姿に彼の幼い頃を重ねて。






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結局思い出しちゃった兄貴。うふ。
18巻の中表紙のよっちの笑顔がかわいすぎです、そんなに嬉しいかと思って自分の幼い頃を思い出したら。
雨で遊んだ記憶がありませんでした…駄目じゃん。
汚れるとか子どもっぽくないことを思ってた気がします、たしか。
18巻はかっこいい良守だらけですね〜vvあーお腹痛い(話違う)。
兄貴もかっこいい。かっこよすぎ、あーこの兄弟っておいしい。ホントに美味しい兄弟です。

2007/10/20

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