月、沈む







遠い空に輝いていた月が白くなってきはじめて、朝の訪れを告げていた。
もうすぐ、現実が戻ってくる。

客間の縁側で布団をかけているとはいえ、裸の自分を腕の中にしまったまま寝そべる兄に、大胆な奴めと心の中で罵倒した。
良守の兄は情事に更ける時、縁側のように開放された場所を好む。
結界を張っているから音が漏れて家人にばれることはないし、高い塀があるから知らない人に見られる心配もない。
それでも、家族の中の秘密の関係を持っているのだからこそこそして当然じゃないかと良守は思う。
それに対しての罪悪感は全く持ってないのだけれど。


「そろそろ、ここも寒くなってきたなぁ」
「……」
「縁側、好きなんだけど。次からは襖を閉めないといけないかもな」
「…べつ、に。結界、張ったら関係、ないだろ」

しどろもどろになってしまうのは、極度の眠気のためだ。
それでも意識を手放したくないのは、兄の腕の中の温度が心地良いから。
首もとにある腕をぎゅっと握って、少しの寒さから身を守るフリをする。
すると兄は布団をかけ直してくれた。

「なに。お前も縁側でするの好き?」

くすり、と笑われて良守はふん、と鼻を鳴らした。
それから空を眺める。
夜は良守だけの時間だった。
そこに兄が加わって、更に夜が非日常になった。
朝になれば、いつも通り仲の良くない兄弟の顔になる。
もう別に仲の悪いフリはしなくていいんだけれど、急に仲良くなったら疑われるかなと思ったまま、中々やめるきっかけがつかめていない。

だから良守は月が沈むその瞬間まで、起きていたいと思うようになっていた。
できるだけ長い、非日常に身を浸していたくて。
















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ラブラブ仕立てにしてみました。なんとなく。

2007/11/05

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