腕の中で







「よーしもり」

祖父がいないからか、結界を張らずに眠っている良守に向けて明るい声を態と出すと、寝返りを打って主に背を向けられた。
どうやら声が俺のモノだとわかったのだろう。
父さんや利守にだったら言い訳の一つや二つは絶対に言う。無視するのは俺だからだ。
だから、俺はさっきよりも声を大きくして。

「良守、よしもりー起きてよ。父さんが出かけちゃってさぁ。暇なの。相手してよ」

布団を捲り上げ強引に上半身を起そうとすると無言で抵抗されたが、腕力の差と寝起きの力ではかなわないのがわかったらしく、良守は抵抗はやめつつも布団を持つ手は放さない。
なんとなく、その指を取って舐めると良守の口から声にならない悲鳴があがる。

「な、な、なっ…」
「起きた?じゃあ、さ。ケーキを食べに行くか?それとも買い物に行くか」

振りほどこうとする良守の手を俺はしっかりと握る。
暫くして良守は頑張って平静を取り戻したフリをして、布団の上に座って、俺を睨んだ。
でも、こういうときの目はきつくなくて。どこか、幼くて。眠気が滲んでかわいい。
けれど、その口から出てくる言葉は照れ隠しにしてもかわいくない。

「…どこも、行かねぇ…寝させろ」
「兄ちゃんの相手してよ」
「兄ちゃん言うな、利守と将棋しろよ」
「利守、なんかどっか行ったんだよ。あー、眠いのか。んじゃ仕方ないな」

いきなり、仕方ないと言われて、良守が驚いた顔をしたけれど、寝れるのが第一なのか、また横になりながら布団を自分に掛けようとしたから。
油断した所を、隣にするりと侵入する。
良守は驚いて、俺の胸元に腕を突っ張るけれどそれを構わず抱きしめた。

「っなに入ってきてんだよ!」
「俺も寝る」
「ざけんなっ抱きつくなっ」
「良守の布団、ちっちゃいねー」
「うっせ!一人用なんだよ!」
「じゃ、俺の布団に移動するか」
「しねぇ!」
「じゃ、このまま。父さんが帰ってくるまで一緒に寝てよ」

抱きしめて、首筋に顔を埋めると、息が掛かったからか良守の身体がびくりと跳ねた。
それを押さえ込むように、更に抱きしめる。

「あついっ」
「俺は寒いから丁度良いよ」

落ち着け、と昔遣ったみたいに背中を優しく撫でると良守が震え出す。
なんでだろうなぁと顔を覗くと、それを嫌がって俺の腕の中に顔を埋めた。
長めの髪の毛の間から見えた耳が少し赤くて、触ってみたくなる。

「良守?」
「うるせー」
「なに、昔、思い出したの?」
「思い出してねぇっ。寝るなら寝ろっ」

くすくすと笑って背中をなで続け、ついでに髪の毛も手櫛でといていると段々良守の寝息が聞こえてきた。
幼い頃、悪夢を見たり淋しくなったりした良守を抱きしめて眠っていたことを思い出しつつその寝息を聞いていると自然、寝るつもりのなかった俺の眠くなり、いつのまにか眠っていた。






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オチナシです。えっと、ただの兄弟です。ただのスキンシップ過多兄弟なのでえろなしです。
2007/11/15

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