オトナな玩具と無垢な君




「良守ーちょっといいか?」

良守が夕食後の仮眠を取ろうとしたときに、正守の声と共に襖が開いた。
なにかを手に持っている正守は、ご機嫌だ。
今回の帰省は初めからご機嫌だった。

「眠いんだけど」
「そういうなよ。仕事の後の方が眠いだろ?今回はこの為に帰ってきたんだからちょっと兄ちゃんに時間ちょうだい?」
「このためって?」

半ば布団に入りかけていた良守は、何か重要な話なのだろうかと半身を起こして布団の上に座る。
その前に正守が座り、ひらりと一枚の紙を差し出した。

「なんだよ」
「この中から良守が好きなの一つ選んで」

紙を受け取った良守は、なんだかわからないままそれを見つめる。
それは某遊園地のキャラクターの顔に棒がついたペンライトのようなものが数点、写真として掲載されているチラシだった。
けれど、よく見ると少し顔が違うし、キャラクターの名前でもなく「ネズミ、クマ」などと書いてある。
パチもんか、と良守は溜め息を吐いた。

「選ぶって…こんなの、夜行の子にあげれば?俺、いらね」
「…いや、それはマズイだろ」
「なんで?人数分買ってやれば?パチもんだし、そんな高くないだろ。っていうか、利守にやれば」
「…おまえ、それがなにだか分かってる?」

正守が変な顔をしたので良守は首を捻る。
わかるもなにも、ネズミやクマの顔は半透明だし、スティックのところは丁度単三の電池が入りそうなかんじだし…と良守はもう一度正守を見る。
やっぱり正守は困ったような、苦笑したような顔をしていた。

「ペンライト…だろ?」
「まぁ…一応光るみたいだけど…」

正守がチラシに視線をやるので、良守も思わずその視線を追う。
どこからどう見てもペンライトだった。

「俺、夜目効くよ。っていうか、そんなのもって戦えないんだけど」
「いや、だからさ。そうじゃなくて、そこなんて書いてあるか読める?」

近付いてきて、チラシの片隅を指さされる。
そこには「ネズミ、クマ」などの他に。

「んだよ。バカにすんな。ネズミ、クマ…ペンライト…がた?」
「つづきは?」
「ろーたー」
「わかった?」

正守が楽しそうな声になっていたことに気づき、良守は正守を見上げると苦笑から、にやりとしたイヤな笑みに変わっていた。
けれど、何が楽しいのか良守にはわからない。
もう一度チラシを見る。
隅から隅まで見る。
「女性に大人気」は、良守にも読めた。
「おまけ」やら「ついてくる」やら、取り敢えずなにかを買ったら貰えると言うことだけは、部分的に理解した。
けれど、他の漢字は難しくて良守には読めない。カタカナでも単語の意味がわからない。
っていうか。

「ろーたーってなに。ペンライト型って、光るんだったらペンライトと何が違うんだよ」
「……知らないの、お前」
「知らねー」

むっとした表情で良守が正守を睨めば、正守は一瞬絶句し、その後しばし考え込んでから苦笑して、そして声を立てて笑い始めた。
何がなんだか良守にはよくわからなかったが、知らないと言ったことに正守が笑ったと言うことだけは理解できる。

「なんだよ!」
「いや、うん。ごめん。14歳のときって、そういう知識まだ少ないかもなって思って」
「なんだよ、それ意味分かんねーっ」
「お前、AVとか、知らない?見たことない?」
「何それ」
「…まじで、あれ。お前、学校で友達となに話してるんだ」

正守は一転、笑いを引っ込めてしまう。
そんなに変なことを聞いたかな、と良守は首を傾げながら学校での会話を思い出したが、普段寝ているし寝ていない時はお菓子のことを考えているか、女の子からそれについて聞かれているか、もしくはコーヒー牛乳を争っているか…。
偶に、そうだ偶に誰々がカワイイだとか、高等部の誰々が綺麗だとか、時音のことだとか女の子の話題が出る。
と、素直に良守が喋ると正守は呆れた顔をして、平和だなぁと呟いた。

「なんだよ」
「ごめんな、兄ちゃん早まった」

なにが、と良守が聞くよりも早く、正守に腕を引かれ、その腕の中に倒れ込む。
中途半端になった体制を整えられるのに良守が抵抗すれば、背中をぽんぽんと軽く叩かれた。
子どもの頃からのクセか、そうされると良守はとたんに大人しくなるのだ。
勿論、正守に怪しい動きがない時に限るけれど。
あぐらをかいた正守の脚の上に良守は座らされ、抱きしめられた。腕は腰の当たりにあるから、まぁいいかと良守は力を抜いた。

「まさか、知らないとはなぁ。俺がお前の歳の時は知ってたよ。あ、道具の詳細は知らないけど」
「道具?さっきのやつか?」
「うん、そう。あれはねー。よいしょっと」
「うわ、ちょっ」

急に尻の下に掌が潜り込んできて、良守の体が浮く。
けれどそれは正守にとって都合が良く、中心の、正守を受け入れる所へスウェット越しに右の一差し指を押してた。
ぴくんと体が震えた良守を左手で押さえつつ、嫌がる良守を無視して正守はもう一度溜め息を吐く。

「やめろよっ」
「あれはここに入れるの」
「は?」

言われたことが意味不明で良守は、ぽかんと嫌がることも忘れて正守を見上げる。
正守は苦笑を崩さず、ふざけているようには見えなかった。

「ここにね、入れてね。良守にきもちよーくなってもらうための道具。わかる?」

ぐりぐり、と下半身を刺激されながら良守の脳は理解を拒んだ。
けれど、拒んでも耳に入ってきた情報は消えない。
先程正守に腕を引っ張られた為、側に落ちてしまったチラシをもう一度良守は見直す。

どうぶつのあたまがついたこのぼうをこいつはおれのなかにいれるっていった。

やっと整理して出てきた文章は、とんでもなく。兄に色々されてとっくに開発されているとはいえ、生まれながら次代墨村家当主の座を約束されたある意味箱入り息子で性知識皆無になってしまった14歳中学生な良守には羞恥も恥辱も十分すぎる程感じられるものだった。

「いっつも良守とする時のローション、あ。慣らす時の液体ね。を買ってるところでくれるらしいからさ、良守にそろそろ使ってもいいかなぁって思ったんだよ。ほら、もう大分回数やってるじゃん?それに今時の中学生が性知識もないなんて思わなかったし。でも、そうだよなぁ。おまえ、初めてのとき全然理解できてなかったもんな。兄ちゃん、ちゃんと教えてあげないといけない時期に出て行ったもんな、ごめんなぁ」

淡々と謝りながらも良守の後ろをいじっている正守は気付いていなかった。
許容範囲を超えた羞恥の為、良守がとっくに気絶していることを。











------------------------------------------------
そして兄貴はしばらくせっくちゅさせてもらえませんでした。
よちもり性知識皆無だと楽しいなと思って。いや、アル程度あるだろうけれど。
2007/11/22




閉じる