眠れない夜








「お前が望むなら星も月も空ごと全部やるのにな」

うつら、うつらとしていた。
背後の温かさは冬には丁度良い湯たんぽ代わりだ。
向こうもそう言っていたし。
だから、色々な疲れも伴って睡魔に身を任せかけたとき、そう聞こえた。

意味が分からず、ぼんやりとその言葉を頭の中で消化しようとする。
星も月も。空ごと。くれる。

どうやって?あんな遠いもの、っていうかあれに所有権ってあるんか。
そう思ったので、そのまんま言うと後ろで苦笑された。

「寝てると思った、ごめん。起こした?」
「まだ…起きてた」

寝てると思って言うことがあれかよ。意味不明だ、兄貴は。
で。

「月とか、星とか、買えるのか」
「月は買えるよ」
「ふーん」
「ほしい?」
「いらね」

即答すると腰の当たりにあった兄貴の腕が俺の首元へするりともぐりこんできた。
そんでぎゅっと抱きしめられる。

「いらないのか」
「いらね、っつか、それ手に入れて、なんの意味があんの」
「意味っていうかね…」

それきり黙ってしまった兄貴の方へ向こうとしたけれど、腕が邪魔で寝返りが打てない。
意味って言うか、ってなら一体なんなんだ。
もう、考えるのもめんどくさいくらい眠い。
眠いんだよ、バカ兄貴。

「んなもんより、おまえがいれば、いい」


それだけ言うのが限界だった。











「おまえがいればいい」

なんて事を言うんだこの子は。
その言葉を聞いた瞬間心臓が大きく波打ったのを感じて、慌てて腕を放そうとしたのだけれど、ぎゅっと握られていて動かせなかった。
動揺しているのが伝わるかも知れないと思い離れようとするのに、手が離れない。
どうしようかと焦っているウチに、良守が大人しいことに気付いた。

「良守?」

返事はない。
少し強引に腕を外し、こちらを向けさせると簡単に動かせた。
良守は眠ってしまっている。

「言い逃げ…」

とは言いつつも、正直動揺したのがばれなかったのは有り難い。
良守の寝付きの良さに感謝だ。


別に本気で星や月をあげようなんて思っていた訳じゃない。
欲しがらないだろうと言うことも分かっていた。
けれど、良守が欲しいなら----、望むならそれくらい容易いことだと思う。
それぐらい愛おしい、という思いが自然、零れてしまったのだ。
だけど、簡単にそれを「いらない」と言われて、ああ、こいつは俺からはなにもいらないのか、と落胆したんだけど。

まだ14歳だし、そもそもこういう比喩は元々理解できる思考回路をもてないのだろう、この弟は。
それでも吐かれた言葉は、よりによって俺を求めるものだった。
ああ、もうこの子は。
どうしてくれようか。

「言い逃げなんて、卑怯だよ」

疲れに眠りに落ちた弟を起こす訳にも行かず、けれど心臓の鼓動が落ち着いて血液が移動してしまった下半身の熱を収める術も見あたらない。

ああ、きっと今夜は眠れない。







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「良守の為なら汚れ役」で、でも良守はそんなもん望んでない、兄貴がいればいいのになぁ…みたいな。
思い合ってるのに通じ合ってない……兄弟です。かんじで。
2007/12/06



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