目撃者は語らず
仕事終わり、短パン女は先に帰って。
今日の報告はもう済ませたし、と俺も帰ろうとした時。
良守が叫んだ。
何ごとだっと秀と駆け寄ると良守が立っている門の近くには。
「兄貴!」
頭領がふらうらと歩いて烏森に来ていた。
どういう訳か、良守の白い妖犬はいなくなっていた。
「頭領?どうしたんですか」
嫌悪感丸出しな良守を置いて、俺と秀とが近寄ると頭領は酒臭く。
よく見れば顔も赤かった。
酔っているのだろうか。
「ん?あ、おつかれ。良守を迎えに来たんだよ」
「テメェ、一々ガキじゃねぇんだから!」
突っかかる良守は、頭領が酔っていることに気付いていないらしい。
今日の報告をしたときは普通だと思っていたくらいだし、妖混じりの鼻じゃないとわからない程度の匂いなのか、それとも単に良守が鈍いのか。
恐らく後者だろう。
「頭領、なにかあったんですか?」
「ああ、ミキちゃんがさぁ、強制的に休みとれって実家にほおってくれてさぁ。酷いよねミキちゃん」
溜め息を吐く頭領を見て、良守が俺達にミキちゃんって誰だと聞いてきたので、副長、と告げると、ああ、と思いだしたのか、少し頬を赤くして美人な人だと言う。
気の強い綺麗な女に弱いのはもしかして家系なのかも知れない。
最も、頭領と良守とは意味合いが違う気もするけど。
「んで、ちょっと前までおじいさんと酒飲んでたんだけど、おじいさん、寝ちゃってね。一人で飲んでた」
「酒飲んでるのか!」
良守が驚いて俺を見た。
そこで何故に俺を見る?
頭領だって大人なんだから酒くらい飲むだろ。
って、あ、そっか。
こいつ、一緒に住んでないから知らないのか。
「そうですか、じゃあ俺達帰るんで…」
と、兄弟の五月蠅いケンカに巻き込まれたくないと秀に帰宅を促そうとすると、ちょっと待って、と頭領に言われる。
「はい?」
首を傾げた俺に頭領はんとね、と言って懐に手を入れた。
それから良守を呼ぶ。
怪訝な顔をしながらも素直に頭領の近くに寄っていっているのは、やっぱり良守が良守だからだろうと思った。
「これね、似合うと思ってさ」
頭領が懐から出した何かを良守の頭にかぽ、とはめる。
後ろから見てもわかる、それはとんがったものが二つついているカチューシャで。
………。
「ああ。似合うよ。ねぇ、閃も秀も見て」
くるり、と頭領が良守の身体を俺達の方へ向けた。
そこには黒いネコミミを着けた良守が。
当の良守は自分の頭のことなのでわけがわかっていない様子だ。
「……と、頭領…」
「なんだよ、コレ、なぁ、兄貴、これ何着けたんだよ」
と俺らの困った顔を見て焦った良守が自分の頭に手をやる。
三角形のそれを触ると、ふわふわ?と呟いた。
そんな良守に頭領は今度は袖口から手鏡を出す。
手渡された鏡を見て、良守は固まった。
俺達も固まってる。
頭領は一人楽しく笑っている。
「な、な、なんだこれ〜〜〜〜!!」
自分の姿に驚いて良守は鏡を落とした、のだけれどそれをタイミングよく頭領が結界で囲い拾い上げた。
そんな頭領に良守がカチューシャを外しつっかかろうとしたのだけれど。
外す前に念糸で手を縛られ、手で口を塞がれる。
「ん〜〜〜っんんっんん〜〜〜っ」
「かわいいんだからいいじゃん。ね?閃?秀?」
にっこりと笑って俺達に同意を求めた頭領に対して首を横に振れる夜行の人間がいるわけがない。
そんな俺達に満足したのか、頭領は良守を念糸でぐるぐる巻きにすると俺達に別れを告げ、
「ははははは、かわいいなぁ良守は」
と笑いながら空を翔ていった。
残された俺と秀は。
「夢だ」
「うん、そうだね。今のは夢だね」
と見なかったことにした。
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なんじゃこりゃ。
ほんとはぶっちゅーさせてかったんですが、まぁいいやと。
単に刃鳥さんを「ミキちゃん」と呼ばせ、「美人だった」と良守に言わせたかっただけです。
注:目撃者シリーズとは無関係です。
08/01/18
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