プリンが食べたい






「おっ○いプリンって知ってる?」






ぷっちん、と軽快な音を出してプリンが皿の上に落ちていく。
実際に音が鳴ったのは容器であるが、その音と不釣り合いな艶やかな色合いを出しているプリン。
実家に帰った兄が冷蔵庫を開いた所、容器を逆さにして突起を折ると中身が皿の上に出てくる、市販のプリンを発見した。
三つセットの一つが余っていて、三人兄弟だし俺のだよな、と良守が聞けば「出て行ったクセに」と激昂しそうなことを考えてそれを手に取った。

そして皿の上に出し、スプーンでつつく。
ふるふる、と震えるプリンは、正守の脳内にあるものを思い起こさせた。
あるもの。
目の前のプリンもおいしそうだけれど、それが今すぐ食べたい。

そう思った正守はそれを取りに行こうと立ち上がる。
なぜだかプリンが乗った皿を持って。




そして正守が現れたのは丁度仕事が終わった頃の烏森の上。
携帯で弟を呼び出し、実家の妖犬が帰宅したのを確認した。
ひょい、ひょいと結界を使って自分の近付いてくる弟を見て、食欲が増す。

近付くにつれて正守の食欲を刺激する弟が、「なんだよ、急に烏森に来て」と少し照れくさそうな顔を見せたときに正守がなんのためらいも、悪気もなく言ったのが、先程の台詞である。







弟はとても驚いた。
まさか兄からそんな言葉(主におっぱ○)が出てくるとは思っていなかった。
確かに性欲魔神ではあると身をもって知ってはいるのだけれど。
そしてその兄は何故か着物に、プリンを持参している。

「な、な!?」
「あのね、プリンとおっ○いの共通点があるんだよ」
「は!?」

思わず後ずさり、逃げようとした良守の足を正守の結界が固定する。
酔っぱらっているのかと良守はささやかな兄の尊厳の回復を願った。
けれど、無情にも兄は続ける。

「この、ぷるんと震える感じがおっぱ○と似てるんだよね、かぶりつきたくなるっていうか。あ、俺はおっ○いはどうでもいいんだけどね。お前についていたらかぶりつくけど、お前におっぱ○ないし。つまりね、ぷりんっていうのは男の欲情を誘う……」
「だーーっっ菓子でそんなこと思うんじゃねぇ!」

尊厳が回復どころかいっそ軽蔑したくなるような内容が次から次へと兄の口から出てくるので、良守は結界で攻撃をしようとした。
けれど、それも兄の結界ですべて消されてしまう。
ならば、もう聞かなくて言い様にと両手で自分の耳を塞ごうとしたのに、兄はそれも両手を結界で囲うことで防いだ。

「なんなんだよ、テメェ!」
「だからね、俺はプリンを食べようとして他のものが食べたくなったんだって」
「プリンがあるんだからプリンを食ってろよ!」

喚くしか手だての無くなった半泣きの良守に正守はゆっくりと近付いた。
至近距離の兄の顔は至極真面目で、良守は一体兄になにが起こったんだろうと思ってしまう。
困ったような恐がっているような表情の弟に、正守は一口プリンを口に含むと口移しで食べさせた。

「…ん、だよ」

もっと深く口付けられるのかと思った良守は直ぐに離れた兄を見遣る。
その兄は、困惑しきった弟に満足した笑みを向け、耳元でとでんもないことを呟いた。

「お前の尻ってプリンみたいに震えるんだよね」

知ってた?と笑顔で聞いてくる兄に、良守は蒼白な顔で首を振ることしかできなかった。










三日後、漸く歯形が消えたとホッとしたころ、「頭領がなんか調子イイらしいぞ」と何気なく閃に報告され、良守は正守の弟として産まれてきた自分の人生に涙したという。















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んと、えと。
色々ごめんなさい。
…遠夜、お尻には興味がなかった筈なんですが…よっしの尻は何故か好きです。
08/01/28

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