桃の甘さと
今年の桃は甘くて大きい。
そういって良守の父は桃をたくさん買ってきた。
男所帯ではふつう、そんなに果物にこだわらないだろう。
しかし、甘いもの好きが集まっている墨村家では違った。
常に季節のフルーツが切れたことはない。
今、良守はその桃を使ってのデザートを作っている。
合間につまみ食い用の桃をしゃくしゃくと食べながら。
甘い甘い桃の密は口の中を満たしてくれる。
今年の桃は本当に甘かった。
えぐみも少なく、酸味も少ない。
だから、良守はとても満足している。
甘い桃ほど、ヨーグルトによく合うのだ。
生クリームとヨーグルトを合わせたものに角切りにした桃を混ぜふやかしたゼラチンを流し込む。
手早く混ぜて、あらかじめラップを敷いていたプリン用の型に次々とそれらを流し込んで、ラップの先をひねる。
そうして冷蔵庫で冷やせば桃のヨーグルト茶巾ができる。
父について行ったスーパーの入り口にある無料でもらえるレシピに書いてあったものを良守は持ち帰り、即試している。
ただし、茶巾なのだから本当は中身に桃なのだけれど、それでよりも角切りにして混ぜた方がいいのではと思ったのは良守だ。
楽しみだな、と思って良守は冷蔵庫にそれらをしまう。
そして振り返ったとたん、そこに居たのは。
「あ、あにきっっ!?」
「ただいま」
「け、気配消してたつなって何度も言ってるだろっ」
「いや、消してないよ。お前が集中してたから気づかなかったんだよ」
しれっとして言う兄は、確かに気配を抑えているものの、殺してはない。
そうなるとやはり自分がデザート作りに勤しんでいる間に油断していたということだ。
うぐ、とうなる良守に正守は機嫌良さそうにわらう。
「んだよ」
「甘いにおい。桃か」
「あ、うん。食べるか?剥くぞ?」
甘いものが食べたかったのか、そうか、そういわれてみれば兄はまだ羽織を着たままだ。
まだ帰ってきたばかりなのだろう。
そう思って良守がまた冷蔵庫へ向かおうとしたとき。
ぐいと、腕を引かれ唇をふさがれる。
「ん、」
一瞬だけ舌を絡められ、あごのあたりをなめられてから正守はすぐに良守から離れた。
「な、にっすんだっ」
「だから、甘いにおいしたから」
「は?」
「ごちそーさま」
呆然とする良守をほおって正守はキッチンから今の方へと向かっていった。
良守は間をおいて我に返ったが、兄の行動を読めなかった自分が悔しくて桃のヨーグルト茶巾が完成するまでキッチンに結界を張り閉じこもっていた。
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なんとなく。桃にはヨーグルトがよく合うの……。
2008/08/26
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