いちご















久々に帰省した正守を迎えたのは父がもらったという高級感溢れるゼリーだった。

金色の容器に入ったそれは果肉がたっぷり使われているらしい。

そんなゼリーを女々しくもちびちびと味わっている正守の真正面には、同じく少しずつスプーンで味わう良守が居た。

ほかの家族はみな、留守である。



良守はいちごのゼリー選んだので、正守はその横にあったメロンを手に取った。

けれども、正守はどうしていちごを自分が食べなかったのかと後悔している。

メロンのゼリーがまず訳ではない。決してそんなわけではない。



ただ、赤いいちごのゼリーが、良守のこれまた赤い口の中にある赤い舌に引き込まれていく様子を見続けるのが耐え難かったのだ。



ふつう、弟がゼリーを食べているの様子を見るだけならば何も耐えることはない。今、目の前にいるのが末弟の利守だったらなんにも思わなかっただろう。

けれど、そこにいるのは弟は弟でもただの弟ではない。

良守は正守にとって最愛の人、つまり恋人だった。

弟に対する執着が烏森の横やりによっておかしな方向に向かっていることは、家を出るよりももっと前から正守自身が自覚していた。

けれど、良守をきちんと弟としても愛していたので自分のおかしな思いに巻き込みはしたくなかった。

そんな思いで家を出て7年経った数ヶ月前。

なにがどうしてか、正守の思いが良守に伝わってしまっただけでなく、受け入れられてしまう。

だが、人生の半分以上も弟に懸想していた正守は、それ以上を望んでいなかったためいざ両思いと呼べる状態になってもなにをすればいいのかわからなかった。

家族といえでも数ヶ月単位で会うこともできないし、それは恋人となっても変わらない。

変わったことと言えば携帯で少し連絡を取り合うようになった程度、である。

そして今回の帰省でどうにか関係を変えたいと思っていた矢先の、己のどん欲さに正守はあきれ果てていた。



目の前の赤い舌がおいしそうに見えて仕方がないのだ。

甘くてちょっと酸っぱいいちごぜりーを食べる赤い舌がちろちろと姿を現すたびに上下する喉をごまかすため、正守はメロンのゼリーをちびちびと咀嚼した。

けれども、メロンの味など感じない。

ああ、今はメロンよりも甘くて酸っぱいだろうあの赤いものがほしいっ。

そう叫びたい自分を正守は必死に押さえつける。



「兄貴?」

「な、なんだ?」

「ん」



弟は急に、赤いゼリーが乗ったプラスチックの小さなスプーンを掲げてきた。

食べろ、ということらしい。



「良守?」



いきなり声をかけられて動揺しているのを隠しつつ正守は弟の様子をうかがった。

良守は首をかしげて、いるんだろ?と言う。



「え?」

「さっきから、ずーっと俺の手元見てるから。いちごが食べたかったんだろ?言えばよかったのに」



弟に悟られるほど唇を凝視していた己にまた正守は呆れ果てる。

しかし、鈍い弟はそうと気づかなかったようで、内心ほっとした正守は良守の厚意に甘えてあーんとそのゼリーをほおばるった。

そのお返しとばかりに正守はあまり減っていなかったメロンのゼリーをたくさんスプーンに乗せて良守の口へと運ぶ。

良守は正守のお礼に喜んで珍しくも正守にとびきりの笑顔を向けた。

これはこれで、以前の兄弟にはなかったスキンシップだなと正守は想像していたより甘くてすっぱかったゼリーを味わいながら満足したのだった。











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…純情?へたれ?あたらしいかんじです。
2008/09/10


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