sweet PUMPKIN
美しいまでのオレンジ色。
そう正守は送られた画像が映し出される携帯の液晶をまじまじと眺める。
「カボチャのモンブラン?」
弟が作ったのだろう、そのケーキはふつうのモンブランのように濃い茶色や鮮やかな黄色ではなく、オレンジ色をしていた。
明日がハロウィンだと言うことを考えれば、これはカボチャなのだろう。
画像の他には言葉も添えられていなく、正守は弟の意図を探ろうと一瞬だけ考え込んだ。
良守はよく、傑作だと思う自作のケーキを携帯で写真を撮って送ってくれる。
しかし、大体そのときにはケーキの種類や材料やどんな味がするかなどを添えてメールしてくる。
正守はいつ頃帰るから、そのときにこれをつくってほしい、などをその返事にする。
けれど、明日がハロウィンだからこの画像を送ってきたのなら、このケーキは明日にしか食べれないのだろう。
ということは。
正守は画像を消して、良守の番号を呼び出した。
『…もしもし』
「もしもしー俺だけど」
『んだよ、くそ兄貴』
「うわーひどっ」
だるそうに答える割には、ワンコールで出た良守に正守はうれしさを隠しきれなくなる。
ちらり、と壁に掛ける時計を見るとそろそろ良守が烏森に出かけなければならない時間帯。
長引かせることはできない。
「明日、帰るよ」
『へ?』
「夜になると思うけど、ケーキ残しておいてよ」
『お、う?』
急な帰省を告げる兄に、良守は驚いているようだった。
けれど、正守はわかっていた。
「お前、ハロウィン好きだっけ?」
『あ、べつに…』
「ふーん。じゃあ、カボチャ好きだっけ?」
『まあ、好きだけど…。ケーキ、かぼちゃってわかったのか?』
「明日ハロウィンだからね」
正守がケーキに惹かれているのだとわかってきた良守の声は段々と明るくなっていく。
やっぱり、と正守は心の内で笑った。
『明日って、その、仕事、大丈夫なのかよ』
「んー、まあ、長居しなきゃ平気」
『ふーん…』
逢瀬の時間があまりないことを知った良守は、今度は逆に声のトーンを落とした。
そんな弟の単純さに、ついに正守は声に出して笑い出してしまう。
『な、何わらってんだよ!』
「いや、うれしいからさ」
『はあ?』
「兄ちゃんもお前に逢いたかったからさ」
『っ!!』
良守は自作のケーキを写メにして送ると、兄が数回に一度は帰省してくることがわかったのだろう。
最初は作ったケーキをほめられたいためだった行為が、「逢いたい」というメッセージになっていたのに、今日初めて気がついた正守は、「自分も」逢いたかったのだとどうしても告げたかった。
ちゃんと、良守のメッセージに気づいたと。
けれど、その素直なようでわかりにくいメッセージを送ってきた張本人は気づかれてしまったことに気が動転したのか、声にならない声しか出てこないらしい。
「良守ー?なに??兄ちゃん、聞こえないー」
そんな弟を正守はいつものように、ついからかってしまった。
するとやっぱり、良守はいつものように大きな声で、「くそ兄貴っ夜までに食ってやるからなっ」と叫んで通話をきったので、正守は嘆息しながらも笑いを抑えきれなかった。
夜までに食べると言うことは、夜になる前に来いと言うことなのか。
つまり、もっとたくさん逢っていたいってことなのか。
明日それを訊いたら良守はまた照れを隠しながら怒るかなと思うと、正守は再び映し出したオレンジ色のケーキの画像を、しばらく眺めずにはいられなかった。
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2008/10/30
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