すべてこの子のためだから
「馬鹿だね」
「うるさいよ」
仕事が終わり眠ってしまった良守を背負って正守が歩く。
その横をふわふわと宙に浮いてまとわりつけばいやな顔をされた。
もちろん、正守にだ。
もともと気の合う相手ではなく、正統継承者でもないその坊やは年齢に反して大人っぽいが、見た目に反してこどもっぽい。
ただ、子供っぽいのは最初の弟に対してだけだけれど。
つまり、良守に対してだけ。
ついでに、それにくっついている私にも。
「知ってるかい、この子の行く末とあんたは関係ないよ」
「それこそ、おまえには関係ない。俺は正統じゃないんでね」
七つになり、一人前の正統継承者として烏森を守護する役目を負っている良守を泣かせるくせに守ろうとする正守は烏森をひどく憎んでいる目をする。
きっとこの子のためによからなぬことだってする気でいる。
まぁ、そんなことはどうでもいいし、良守を泣かせたりこっそり世話を焼いたり、忙しいのもどうでもいい。
どうでもいいのだけれど、変に大人ぶる坊やは憎たらしい。
たった10年とちょっとしか生きてない人間が400年もあやかしでいるアタシに対抗心を持つのが憎たらしい。
アタシは知ってるんだから。
「なぁ、斑尾」
「なんだい」
憎たらしい作り笑顔が張り付く癖に、ふと真剣になるとき、それは良守のことを口にするとき。
そこまで思っているのに。
おまえは良守になにも言えないんだ。
「良守をよろしく、頼むよ」
「…アンタに言われなくても」
それがアタシの仕事さね、と言えば嘘くさい笑みの前に一瞬だけ悔しそうな顔をしたのも見逃さない。
守りたいのに守れない、誰よりそばにいたいのにそばにいれない。
手をさしのべたいけれど、縋ってくる手を振り払うことしかできない。
おまえがそんな葛藤を持っていることだって知っているよ。
そう言えばすこしは子供らしくなるのだろうかと思うけれど、二人もこどもの世話はできないから、かたちだけでも大人ぶっていてもらったほうがいいか 、と結局、何度目かもわからない知らないフリをした。
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斑尾姉さんは難しいですね。
まさもりが斑尾に嫉妬してるといいなぁとか思ったのがうまくかけてないです…すみません。
07/07/21
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