ぞっこんな5のお題

01.ちきしょう、可愛い奴


「兄貴ー」

じゃん、と弟が持ってきたのは。

【幸せの木 マッサン】という札が土に刺さっている木。
上にまっすぐに伸びた葉は色が濃く堅そうだ。
その葉は太い幹から枝もなしに生えている。
なんとなく、南国の植物だろうかと正守は思った。

「なに、それ」
「マッサン」
「…いや、うん。それで?」
「ほら。白尾が兄貴のことマッサンって言うじゃん」
「それで?」
「見つけたから買ってもらった。父さんも喜んでた」

何を喜ぶことがあるんだ、父よ。
そう一瞬思ったが、やはり父は子煩悩なので「幸せ」の後に息子の名前があれば喜ぶかも知れない。

「つか、父さんって白尾と話せないでしょ」
「うん、でも知ってるし」

どういう経路で知ったのかはわからないが、十何年も呼ばれているので、父がそのことをいつのまにか知っていてもおかしくはない。

が。

「それ。どーすんの」
「俺が育てる。おっきくなったらいいにおいの花が咲くらしいぜ」
「へー…」
「熱帯のところのだから居間に置くって」

ということは、帰省するたびにこの「マッサン」という文字を見るのだろうか。
少し足が遠のきそうな気がした。
しかし、良守はそれがわかっていたのだろう、にやりと笑う。

「帰ってこなかったらこの木にちゅーしてやる」





ああ、なんて可愛らしい子なのだろう。
正守は感動のあまり「マッサン」ごと良守を抱きしめた。







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でも「マッサン」は夜行に(札抜いて)







02.四六時中考えてる


二十四時間、俺のこと考えてみて。
寝てる時も、夢に出るくらい考えて。

そしたらわかるよ、俺がどうしてそう言ったのか。



そんな風に言われて、考えた。
昔からずっと思い起こしてみた。
昔は、大好きだった。
ただの年の離れた兄弟で、あいつは俺の世界のすべてで。
それでも段々、いろんなものがそこに介入してきたら「好き」ですませなくなってきた。
そうなってくると、あいつが俺のことを嫌いなんじゃないかって思ってきて。
それはずっと、今までずっとそう思ってきた。


俺は、ずっと兄貴が好きだった。
それは兄弟という意味だけれど。
好きだから、もし嫌われていると言うことを言われた時に平気なようにいたくて。
嫌いなフリをした。

それをどう兄貴が受け取っていたのか。
兄貴だってそうとう意地悪だったから、兄貴だって悪いけど、俺の態度だって悪いんじゃないか。



どこかで掛け違えたなにかを、兄貴は直そうとしたのかもしれない。
そう、考えが行き着くと涙がなぜかでてきた。


「よしもり」
「!」

半月が照らす、屋上で兄貴が俺を呼ぶ。
泣いていたのを見られたのかと思うと気恥ずかしい。

「俺のきもち、わかった?」
「…しらねえ」
「嘘つき」
「…しらねえもん。だって」
「ん?」

ここ何年も、こんなに近くいるのはご飯時くらいなくらい近くに兄貴がよってくる。
真正面でこんなに近いなんて、本当に子どもの頃以来じゃないだろうか。
そう思いながらも、兄貴の目を見ると昔より鋭さが消えている気がした。

これが気のせいじゃないのなら。

「俺は兄貴じゃないから、兄貴の気持ちは言ってくれないとわかんねえ」
「そっか」
「でも、俺は」

少し言いよどむ。
何年も心に抱いてきた、兄貴への恐怖。
それは好きな人間に嫌われているかも知れないという、自分の存在理由さえ見失うほどのもの。
簡単に消えるわけがない。
だけれど、消える可能性があるのなら。

「ずっと、」
「うん」
「さ、みしかった」
「うん」
「かなしかった」
「うん」
「兄貴が、もしそうなら、」

そう言ったところで、兄貴が俺の顔を両手で挟む。

「俺は、今もずっと寂しいよ。お前が好きだから」



その一言で、また零れた涙を、兄貴が少しだけ笑ってぬぐってくれた。




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恋愛というよりはやっぱり兄弟が下敷きになっているかんじの二人。







03.お前のためなら何でも出来る



哀れな、遺体を見て正守はなんとも言えない寂しさが胸をしめるのに気づいていた。
それは彼自身に対する同情ではない。
血のつながった兄に憎まれ、無様な死に方をした男への、同情ではない。
ただ、弟が兄を裏切り、利用し。
その弟を兄がひたすら憎んでいるという状況が、悲しくてしかたなかった。

二人の兄という立場である正守は、一部の望みがあるのではないかと思っていた。
弟が心の底から反省し、兄に許しを請えば兄は許すのではないだろうかと。
けれど、四百年という正守には想像もつかない間にできた兄弟の確執は弟の死という形で終わってしまい、それはたかだか二十年少し生きただけの正守にどうにかできるものではなかった。

同じ、弟を持つものとして。
いや、もしかしたら彼らを自分たちと重ねたのかも知れない。
正守にとってあまりにも複雑な感情の行き場である、良守との関係と。
何があったのかは正守にはわからないが、四百年も共にいた哀れな兄弟の結末をすくえば、少しは良守とふつうの兄弟のようになれるのではないか、そう思ったのかも知れない。


だが、あまりにも違いすぎると、正守は自分の考えを否定する。

良守は俺を利用しない。
だからこそ、俺は良守のために動くのだと。



正守はもう遺体には目を向けず、弟がいる烏森へと意識を向ける。
彼らを救えなかったのはしかたがない。
それよりも、なによりも大事な弟を救うために。





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前、こんなテーマで書いたのでなかなか書けず。
リアルタイムちっくにがんばりました。あとで直すかも。





04.触れたら最後

ふわふわの、ぼさぼさの。
いつもは重力に逆らってのびている髪の毛が。
汗にでもぬれたか、ぺちゃりと下を向いている。
そんなに修行したの。
聞きたいけれど、お前は夢の中。

縁側で昼寝する弟の横に座り、夏の日差しを浴びる。
夜間の活動が主なので、弟も自分もあまり日に当たらない。
それでも、学生である分、弟は多少なりとも日焼けているようだ。

ちりちり、と肌を焼く感覚は嫌いじゃない。
その熱さは、心も焦がしているようで。

横にいるのに、遠いお前のせいじゃない。
この焦燥感は夏のせい。

いいわけするように、見ないですむように。
良守の汗にぬれた頭にタオルをそっとかぶせてやる。





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強くなる良守に信頼が増すと同時に切なさとか寂しさが増す兄貴だと好いと思います。
それでも良守のことから目を離せない兄貴。








5.おれはお前のもの
 
飄々としてる。
舌っ足らずに叫んだ弟はきっと、その漢字を知らないだろう。
お前だってそう思われてると思うんだけどなあって言ったら、余計逆上した。

「そうじゃねーだろっ!」
「なにが」
「ちょっとくらいは俺に必死になってみろよ!」
「なにそれ」

俺はずっとお前に関心をもってほしかったんだから、おまえは俺の必死になっている姿しか見てないはずなのにな。
ああ、そうか。
それがふつうだからか。

ヒヒ、と笑うと良守の目尻が鋭さを増す。
あーあ、そんな必死な顔してても、全然こわくない。
むしろ、かわいくてしかたがない。

俺はたくさん知ってるよ。
お前がどうやったら怒るのか。照れるのか。嬉しくなるのか。
全部、どれも好き。

どんな表情でもいいから俺を見ていてほしいって伝わらないなんて切ないね。
なんて、伝わったら身動き取れなくなるの俺だから。
「飄々」としたフリしてるのかもね、お前に言わせたら。

でも、本当は知ってほしいから、ちょっとだけ言ってみよう。

「お前は、そんな必死にならないでよ」
「んでだよ!」
「おれは、お前が生まれた時からお前のものだからだよ」



驚いて、それからすぐに照れくささからか不信感からか顔を赤くして「ごまかすな」と怒ったお前が大好きだよ。


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お借りしたところ
シュガーロマンス
ttp://nbeautiful.himegimi.jp/

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