策略









丁度仕事が終わった頃、正守に式神が母の伝言を告げた。
それに従う必要もないのだけれど、この仕事が終われば一日休みを貰っている。
刃鳥に明後日戻るとだけメールして、自宅に向かうことにした。

自宅に近付くと、丑三つ時はとっくに過ぎているのに良守の部屋にだけ電気がついているのがわかる。
まだ寝てないのか、と思い、先程の母からの伝言が頭を過ぎる。
良守にも何か、言っているのだろうか。

屋根に乗って良守の部屋の窓を見るとカーテンもしていない。
年頃の女の子なんだから、ちゃんとしないと。後で言っておこう。
カーテンが開いているなら、自分に気付くだろうと思ってそのまま窓に近付く。
そして窓をノックしようと思い覗くと、見たことのない妹の姿。

ビキニの水着を着て、姿見を見ている。

ああ、母よ。
これを見せたかったのか。
知ってるだろうとは思っていたけれど、思ってはいたけれど。
ワザワザ仕向けるようなことを母親がするか、普通。
正守は窓にコン、と頭をぶつけてうなだれた。

『今から良守の処へ行って御覧。いいものが見れるよ』

母の式神が告げた伝言。

あんな母でよかったのか、よくなかったのか。
正守が悩んでいると、音で気付いたのか良守が窓を開けた。

「何やってんだよ、こんな時間に」
「いやね、仕事終わってさ…お前こそこんな時間になんで」
「あ、コレ?母さんの式が届けてくれたから着てみた。似合う?」

やっぱりか、と思ったが嬉しそうに水着を見せる良守はかわいい。
水着は紺のジーンズ生地のような見た目で、胸元にはくたっとした大きめのリボンがついていて、歳にしては大きめの胸を隠しているし、大きめのフリルが沢山ついていてスカートのようになっている。
ビキニが人前に出すには難点だったが、子どもっぽい良守らしいデザインでいやらしさなんて欠片も感じず、母のセンスに感心した。
正守はかわいいよ、と言って部屋の中に入りカーテンを閉める。

「今度、ソレ着て海かプールに行こうか」
「え」
「泊まりじゃなきゃいいだろ?」

正守の提案に、良守は一瞬嬉しそうな顔をしたが、直ぐに下を向く。
正守の視線も下の方へ行ってしまい、腹部や手足に残る傷跡が視界に入る。

良守の身体は正守程ではないにしろ、傷が多い。
同年代の女の子のほとんどは傷一つないのに、良守は毎晩の勤めの為、至る所に傷がある。
その為、学校の水泳の授業は出ないですむように、繁守が根回しをしたようだった。
傷が出来た理由を同級生に聞かれるのも困ることだが、男勝りとはいえ、女の子が傷のある身体を人前に見せるのは苦痛以外の何ものでもないだろう。
普段は気にしていないにしても。

そこまで考えて、正守は母が自分をここへ来させた理由に思い至った。

「良守、服でも着物でも良いから着て。水着の上から」
「え、なんで」
「今から、行こう」
「え、え」
「学校のプール、今なら誰もいないだろう?」

母はきっと、自分にこうさせたかったのだろう。
策略に乗るのは悔しいけれど、正守も良守を思い切り泳がせてやりたかった。













仕事以外の目的で夜の学校に来たことのなかった良守は、少し緊張しているらしかった。
おずおずと暗闇に浮かぶ月を反射した闇のような水へ足をつける。

「なぁ、ホントにいいのかよ」
「だって、俺達の特権でしょ」
「怒られないか?」
「俺達以外はだれもいないよ」

夜目のきく結界師にとっては月明かり一つで十分、辺りを見渡せた。
良守の細く長い手足がくっきりと正守には見ることが出来る。
それどころか、月の淡い光に照らされて浮き上がる白い肌は、妖艶なまでの色気を感じさせる。
すでにシャワーで水浴びをした所為で濡れている全身にしたたる雫にも、それが頬から伝い落ちた鎖骨にも、正守の視線が奪われる。
しかし、当の本人はそんなことに気づきもせず、水を蹴っている。

「兄貴は?」
「俺の水着はないしね」
「持ってくればよかったのに」
「家にもないよ」

あったとしてもそれは中学生時代のもので、成長しきった今着れるようなものではない。
正守が断ると、良守は少し残念そうにプールへと入った。
慣れないことに戸惑ったようだが、気持ちがいいのかすぐに泳ぎだした。
正守の座っている飛び込み台まで来るのにも数分と掛からない。
飛び込み台まで泳いでくると、良守は正守を見上げた。

「泳げるんだ」
「一応、な。前は水泳の授業も出てたし。なあ、兄貴も泳ごうぜ」
「夜行の装束のまんまじゃ無理だろ」
「誰も見てないんだから脱げば」
「…お前ね」
「全部脱げなんて言ってねぇぞ、俺は。上着だけ脱げば泳げるだろ」

なあ、と強請る良守には、さっきの躊躇は全く見られない。
気分がノってくると大胆になる性格は、これから先の為にも治した方が良いのかも知れない、と正守は密かに溜め息を吐いた。

「俺が入ってどうすんの」
「んー?競泳とか」
「俺が勝つに決まってる」
「ムカツクっやってみなきゃわかんねーじゃん」
「勝つよ。体格差、考えたらわかるだろ」

体格差もあるし、体力の差もある。
ただ、そこを出すと本気で拗ねられるので目に見えてわかることしか正守は言わない。
しかしそれで納得は出来なくても事実なので、悔しそうに良守は競泳は諦めた。
その姿に、正守は一つ思いつく。

「いいよ。俺もプールに入ってやるからちょっと待って」

嬉しそうに声を上げた良守を横目に、正守は装束の上と草履を脱ぐ。
素早く飛び込み台から良守から少し離れた所へ飛び込むと、良守に水が散った。

「普通に入れよっ」

怒鳴る良守の隣に素早く泳ぎ寄り、正守はゴメンと軽く謝る。
そしてそのまま、良守の腰を抱き寄せた。
良守はいきなりの暴挙に驚き、両手で抵抗するけれど濡れた身体に滑ってうまくいかない。

「何してっ」
「入るって言ったけど、泳ぐって言ってないよ」
「俺は泳ぎたいのっ」

離せよ、と叫ぶ良守に近所迷惑だよ、と呑気に正守が返す。
その言葉に一瞬だが良守の動きが止まり、その隙に正守が良守を横抱きに抱き上げた。
驚いた良守は身体の安定を求め、正守に抱きつく。

「兄貴っも、いい加減にしろよ」
「だってさーお前無防備なんだもん」
「むぼうびって…」
「信頼されてるのは嬉しいけどさ」
「信頼って…意味わかんねぇんだけど」

ホント子どもだな、と正守は思う。
そんな子どもに欲情する自分はおかしい。
分かっているけれど、実は最初に水着姿の良守を見てからずっと、触れたいのを我慢していた。
しかし、先程上から良守を覗き込んだ時見えた胸の谷間に、正守は我慢をやめたのだ。 正守は水中に結界を張ると自分が座り、良守を自分の膝に向かい合うように座らせる。
良守の腰から下が水につかっている状態だ。

「何やってんの、兄貴」
「わかんない?」
「わかんね」

こーゆーことだよ、と正守は不敵に笑った。




---------------------------------------------- よっしーはおにゃのこになっても「俺」です。 にょたいはえろがきほんだとおもうのです。 07/07/30 next