これが日常だったりする






「姉さん、誕生日オメデトウ」

その年、良守の誕生日は日曜だった。
日曜日は遅くまで寝ていられると良守は自室で爆睡していたのだけれど、規則正しい生活をしなければならないと祖父が正守に良守を起こしに行くように言った。
ほぼ毎週のことなので正守は自分の朝食を食べてから自室へあるものを取りに行ってから姉を起こしに行く。
そして肩を揺すって朝の挨拶代わりに誕生日の祝いの言葉を向けた。

「ん〜…?」
「起きて、朝だから」
「ん…」
「誕生日プレゼント持ってきたんだけどなぁ。いらないの?」

誕生日プレゼント、と聞き良守はがばっと布団から起きあがった。
そう言えば今日は自分の誕生日だったと。
そして正守はいつも良守が喜ぶものをくれる。

「おはよ、正守!」
「おそようだよ。はい、これ」

目をキラキラと輝かせている姉に、弟は苦笑する。
こんなにも期待されたらプレゼントに手抜きができないではないかと。
勿論、手抜きなんて最初からするつもりもないのだけれど。
ピンクの包装紙と赤いリボンで飾られた箱状のプレゼントを受け取った良守は嬉しそうに見つめた。
開けて、という正守の言葉にとリボンを解くと中からは英語で書かれた箱が出てきて、良守にはよく読めない。

「箱、開けたらわかるよ」
「ん」

貼られていたブランド名が入ったシールを剥がし良守は中に入っているモノを取り出した。
箱の形からや重さから中のものは飲料系のビンだと思っていたので、出てきたものに目を剥く。
そこにはカエデの葉の形をした黄金色の液体が入っているビンがあった。
ビンはビンなのだけれど、その形と液体の色から察するにこれは。
良守はその事実にふるふると身体を震わせる。

「こ、この透き通った黄金色、ほのかに香る甘い匂い……まさか、正守…」
「うん、メープルシロップのエキストラ・ライト。最高級品だよ」
「っ!!」

きらきらと太陽の光を反射し、美しく輝くビンを胸に抱いて良守は涙目を正守に向けた。
趣味のお菓子作りにお小遣いのほぼ全てを捧げている良守は、たった50mlで二千円近くするその最高級品のメープルシロップを知った時欲しくて欲しくてたまらなくなった
しかし、まだ学生の身である良守のお小遣いでは高すぎる。
贅沢を言えば200mlは欲しいのだけれど、散財もいいところだ。
だから諦めていたのだけれど……。

「高かっただろ!?これってでっかいし!」
「プレゼントなんだから値段なんて聞かないでよ」
「ああ、ごめん!じゃあ、これで早速何か作ろう!何がいい!?」
「なにがおいしいかな?」
「そうだな、やっぱりホットケーキにかけるか…ロールケーキとか…ヨーグルトに入れてもうまいらしいぞ。折角正守がくれたんだからとびっきりのを作るからな!」

喜ぶ姉に正守は微笑を向けてその様子を見ていた。
それは本当に高かったのだけれど、姉が喜ぶさまを見られるならどうってことなかった。
元々正守は趣味と言えるものもなく、もらう小遣いは殆ど貯金箱で眠っているので年に一度、姉の誕生日には思いっきり高いものをプレゼントすることが正守にとっても歓びになってる。
正守にとってこの世の歓びと言えるものは姉が向けてくれる笑顔だけなのだ。

「姉さんのつくるケーキはおいしいから、ケーキがいいな」
「じゃあ、ケーキにしよう!」
「うん、楽しみだ」

にっこりと笑ってそう言った正守に感極まったのか、良守はビンを持ったまま正守に抱きついた。
座った状態の正守に抱きついたので、正守が後ろに少し倒れたのだけれど気にせず、年にしては大きめの胸に正守の顔を押し付ける。

「もう、ホント正守は姉ちゃん思いのイイ子だな!」
「ね、ねえさ、苦し…」
「俺は正守が弟で嬉しいよ」
「息、いきが……」
「おもいっきりおいしいもの作ってやるからなぁあ」

日々命がけの闘いをしている為か、女の子にしては力強い腕力で抱きしめられ、豊満な胸に顔を押し付けられると息ができなくなることはしょっちゅうなのだけれど、良守はそんな正守の様子に気付いていない。
それどころかぐいぐいと抱きしめ、正守の坊主頭をなで始める始末だ。

姉の胸はとても柔らかくて、それに違う意味で顔を埋められるならそれは死んでも良い程幸せなのになぁ、と思いながら正守は抵抗できず、いつまで経っても良守が食卓に姿を現さないことに焦れた祖父が使わした弟の利守が良守の部屋の襖を開け、

「……正兄が死ぬよ」

と冷静につっこむまでそのまま良守の胸で窒息していたという。















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週に三回ほど正守は死にかけているそうな。本人は幸せ。
でも多分そろそろ抱擁を嫌がるようになると思います。
なぜかっていうと……思春期なので(笑) 08/02/02

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