移ろいゆく1
弟が部下を引き連れて帰省してきた。
それは烏森を守る為だったけれど、姉である良守はとても嬉しかった。
三年ぶりに弟に会うことが出来、立派にやっていっていることを知って。
それは父も同じだったようで、夕食にいつもより気合いが入っている。
今日は手巻き寿司、だと言って大量のノリを買いに出かけた。
父の帰りを待つ間、良守はご飯を炊いたり具材の材料を出したりと、できることは少ないながらも一人でキッチンにいた。
一段落して、棚の上にあるすし桶が目に入る。
高い所にあるから取らなくて良いよ、と父には言われていたけれど、良守には結界術がある。
自分の足元に結界をつくり、テーブル程の高さほどにして自分を持ち上げ、すし桶に手を伸ばした。
余裕余裕、と思ってそれを持ち上げた良守だったが予想に反して桶は重く、バランスを崩す。
よく見ると、桶の中には大量の大きな皿が。
普段使わないだろう、その皿がバランスの崩れた良守が持つ桶の中から飛び出すのを見て、良守は思わず結、と叫んだ。
「姉さん!」
とっさに、良守は落ちた皿を囲う結界を作った。
けれど、自分の身体も結界に囲まれ、宙に浮いていた。
あれ、と思う間もなくその結界が消えて暖かいものの上に落ちる。
「…あれ?」
「あれ、じゃないよ」
暖かいものは弟の正守だった。
そういえば、先程声を聞いた気がする。
抱き留められていたので、良守はそのまま礼を言う。
「ありがと、正守」
言いながら良守が結界を解いて皿を受けるのだが、正守は少し怒った表情をしていた。
「正守?」
「なんで、自分を囲わないの」
「だって、俺、丈夫だし」
壁にぶつかったり地面に落ちたり、日常茶飯事だから良守はなにも思わず皿のみに結界を作った。
けれどそれが正守にとっては気にくわないことだったらしい。
良守の手の中から皿を取ると少し乱暴にテーブルに置く。
「でも、」
「でもじゃない。姉さんは全然、危機管理がなってない。静江さんに頼んでおいてほんと良かった」
「…なにが?」
急に幼馴染みの母親の名前を出されて良守は抱えられたまま首を傾げた。
そんな姉の様子に正守はもう一度溜め息を吐く。
わかってないんだな、と。
「姉さん、こっちに夜行の男連中が泊まるの知ってるでしょ」
「ああ」
「雪村には女性と子どもが泊まるの」
「ふーん」
「だから、姉さんもあっちに寝泊まりしてよ」
「は?」
それだけ言うと、正守は良守を下ろし、キッチンから出て行こうとする。
そんな弟に良守は、おい、と声を荒げた。
「ちょっと待てよ!勝手に決めるな!」
「もうお祖父さんとも相談してるから。寝泊まりだけなんだから我が儘言わないで」
まるで年下に諭すような言い方をする正守に、良守は言葉が詰まる。
そうやって弟なのに上の立場に立ってものを言う正守には慣れていたけれど、有無を言わさずと言う強引さは以前、一緒に暮らしていた時にはなかったものだ。
これが三年の月日なのだろうかと良守は歯がゆい思いで父が帰ってくるまでその場を動けなかった。
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原作の流れなのでそんなかんじです(←上手いこと説明できなくてすみません)。
閃ちゃん出そうか迷い中。多分おんなのこ。
08/05/03〜25
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