とらわれて








「良守〜新作着てみてよ」

ウチは着物屋だ。
俺はそこの看板娘だ。
俺の兄貴は和裁士で、偶に生地のデザインもしている。
そんでできあがった着物を俺に着せて店に出すのが好きらしい。
俺も着物屋の娘だし、兄貴が作った着物を一番に着れるのは嬉しい。

「今日は若い子が着たらモダンになるし、歳が上でもシンプルで上品になるようなのをって考えたんだ」

そう言って兄貴が持ってきた着物は黒地に少し灰色がかった白いドットなのだけれど、少し大きさが違う小さなドットが波のように揺れて縦に並んでいる。そして所々に大きなドットがちりばめられていた。
どうやら兄貴がデザインした生地で作ったらしい。

「かわいい」
「だろう。帯はこの薔薇のはどうだ。紅で綺麗だろう」
「うん、あ、でも紫も綺麗」

兄が手に取った帯は紅の地に白い縁取りでケバくならない程度の黒薔薇があり、下半分には一見レース地にも見える麻の葉柄が同じように白と黒とでデザインされている。紫のものは黒地に紫の薔薇だ。
どっちがいいかなと迷っていると兄貴が着物を俺に羽織らせ腹に紫の方を当てる。

「紫も似合うけど、俺は紅の方が好きだな」
「じゃあ、紅」

素直に頷いて、着物を着て帯を締めて貰う。
一人でもできるのだけれど、兄貴はそれをしたがるし俺もして貰うのが好きだった。

「ああ、うん。かわいいな」
「うん、でも俺にはまだ早いかも」
「そうか?」
「うん。大人が似合うよ」

鏡を見ながらそう言うと兄貴はそうかぁと呟く。
そんな兄貴を鏡越しに見ながら、多分次の着物のことを考えているんだろうと笑った。
兄貴がそれに気付いて目線でなんだと聞いてくるから、首を振る。

「今日はこれで店に出ていい?」
「ああ、いいぞ」

和裁というのはとても時間が掛かるから、量産品が殆どだから。
こうやって兄貴が仕立てたものを頻繁に着れるのは俺の特権だ。
仕立てたものを着るというのはオーダー品の宣伝になるのだけれど、それよりも俺がそれを着ていたいと思うのは、兄貴に包まれているような感じがするから。
だから本当はオーダー品を売りたくない、他の誰にも。
だけれどそんな訳にはいかないから、一番に着れるのが嬉しい。

俺はまだ中学生だから、店を手伝うことしかできないけれど高校はデザイン系に進んで和裁士になろうと思う。
そんで兄貴の着物を作るんだ。
そう言うと兄貴はいつも嬉しそうに笑う。
そんで、二人でデザインした着物が店に並ぶ日が待ち遠しいよと言う。
想像するだけで俺も嬉しくなる。
いつかの日を、想像するだけで。

「さあ、今日は日曜だからな。朝から大変だろうけど頑張ってくれよ」
「うん」

普段は学校で手伝えない俺の手を引いて、兄貴は店の方へ向かった。















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普通に仲の良い年の差兄妹ですね。でもデキてるんですよ一応……。
兄貴は自分が作った着物以外は着せません。支配欲のかんじ。
んでもって脱がすのも兄貴です。

これ、ちゃんとパラレルとして書いたら楽しいかもデスが。
着物のことよく知らないので初心者向けの本とか買わないと分かりません…。
文字だけだときちんと書かないといけないので時間があったら勉強したいですっ。
「とらわれごっこ」を見て妄想しましたvvあの兄弟が正良みたいだったんで…v
2007/12/20


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