すべてが君に
新しい着物のデザインが思いつかず、正守は近所から少し遠出していた。
店に篭もっている正守は最近歩いたことのない道を歩いて古いものから新しいものまで見るが、それはナニもインスピレーションを与えてはくれない。
そろそろ妹が学校から帰宅する頃だし帰ろうか、と思ったとき。
ふと視界に色鮮やかな花々が広がった。
そこは新しくできた花屋だった。
店先にある、大きな鮮やかな赤い色の花を見て、正守は妹に似合うなぁと思う。
自分の店は和服を扱うので、飾ってある花も大体和のものばかり。
けれど、こんな綺麗で色鮮やかな花を妹に、と思う。
「これ、一本ください」
「あ、はい」
迷わずその赤い色の花を指さし、店員を呼ぶ。
店員はその中で一番大きなものを選ぶと、一本でよろしいですかと訊いてきたので正守は頷く。
「そのまま、頂戴」
「あ、でも、ラッピング…」
「いや、一本だけだし。近所だから」
正守がそう言うと、店員は何故か照れたような顔をして正守にその花を手渡した。
めんどくさくなりそうだなぁと思ったが、正守は訊かなければいけないことがあるので口を開く。
「これ、なんの花?」
「ガーベラです」
それだけきくと、正守は代金を払ってさっさとその場を去ることにした。
次は良守も連れてこようと思いながら。
店に戻ると良守が帰宅した直後だった。
正守は良守に新しい着物を出してやる。
黒と紫の市松柄をモダンに崩したもので、勿論正守がデザインしている。
良守には黒や紫がよく似合うと正守は思っていた。
けれど、こんな赤い花をアクセントにするともっと可愛い。
「良守、これつけて」
赤い花の茎を短く切り、つまみかんざしにつけたものを渡す。
良守は驚いてそれを受け取った。
「ガーベラ」
「うん、買ってきた。その着物にはいいアクセントだろ?」
「かわいい」
良守は嬉しそうにかんざしを頭に着け、正守に笑いかけた。
「ひまわりにしよっか」
「ん?」
「次の着物」
喜ぶ良守を見て、正守は次の着物のデザインを思いつく。
嬉しそうに笑う良守を表す花はひまわりだろう、と思いながら正守が次の着物の話をすると良守は花のことなど忘れたかのようにそれに耳を傾けた。
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この兄妹にオチはありません。単なるいちゃいちゃ
08/05/08 閉じる
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