限定和菓子













良守が茶を煎れたので、正守に居間まで皿と茶を運ばせた。
居間に置きっぱなしだった土産の紙包みを取ると、白い紙の箱が出てきて、それを更に開けると生菓子が入っていた。
その数、6つ。

「…兄貴、ついにボケた?」
「ついにってなんだ、ついにって」
「ウチにはお前入れて5人しかいないぞ。母さんは帰ってきてないぞ」
「わかってるって。お前に二つ買ってきたの」
「……なんで」
「欲張りだから」
「だ、だれがっ!」
「いらないの?」
「……いる」

最初から数がないなら二つも食べようなんて思わないが、余っているなら、それも自分の為のものなら貰ったって欲張りじゃない、だろうと良守は思う。
ふてくされて箱を覗くと、正守が説明をしはじめた。

「この四角いのは葛菓子でねー中の短冊と笹はあんこだって。あじさいの周りも葛で、中はこしあん。
で、紫のは白あんの菖蒲、ピンクのは白あんの撫子。粒あんの上に乗ってるのは求肥の鮎だって。
その横のはカステラ風味で、上に乗ってるのが笹と短冊」

こういう和菓子は見た目をまず楽しむものらしいことを良守も知っているので、正守の説明を大人しく聞く。
末っ子も含めて、甘い物は洋菓子でも和菓子でも好きだ。
こういうところは血だろう、それも祖父の血だ。
自分から洋菓子を取り上げるのは、自分が食べたいからだろうと良守は見当をつけている。

「で、良守はどれ食べたい?」
「…あじさいと、カステラのやつ」

あじさいの生菓子は周りについている小さな立方体の葛がキラキラ光って、中の紫色のあんが綺麗に見えた。
カステラ、と言われた生菓子は見た目よりも和菓子でカステラということが気になる。

「兄貴は?」
「俺はね、この葛菓子が気になってたんだ」

葛でできた透明の四角形の中に、緑の笹の葉と紅白の短冊が閉じこめられている生菓子はとても綺麗で、でも正守には似合わないな、と良守はこっそり思う。
もっと渋い、菖蒲のしろあんとかにすれば似合うのにと。

正守がその二つを皿に乗せてくれたので、竹でできたようじでカステラを食べる。
上に乗っていた笹と短冊はどうやらあんこを寒天かなにかで固めたものようだった。

「どう?」
「……スポンジがあんこの味がする…」

見た目は確かにカステラのようなスポンジケーキなのだが、味と食感が違う。
こしあんのように口の中でさらりと溶けていった。
けれど、餡だけでできているのではなく、なにかスポンジケーキのような後に残るような食感もある。

「…これ、焼き菓子?」
「それは聞いてないからわからない」
「和菓子なのに、スポンジ…」
「一口ちょうだい」

あまりにも良守が不思議がっているので、正守も食べたくなったようだ。
皿ごと差し出すと、小さめの一口を口に入れる。
暫く味わってから、正守も唸った。

「んー、詳しく聞けば良かったかな」
「聞いてこいよ」
「でも、これ七夕限定なんだよね」
「今日だけ?」
「今日まで」

七夕、という単語で良守は正守が和菓子を選んだ理由がわかった。
七夕はケーキを食べるより、和菓子の方が良い。
生菓子は季節によって色々な形を見るから、きっとそれも楽しいのだろう。

「多分、焼いてると思う…あんこを沢山入れて。もしかしたら卵白と小麦粉だけかもしんねぇ」
「卵黄なしでスポンジになるの?」
「ブラウニーは卵白だけで焼くこともあるんだぞ」
「へー、そうなんだ」

純和風な家に育ちながら洋菓子作りが趣味な弟が上げた菓子の名に正守は興味が移ったようだった。

「今度帰った時作ってよ」
「いいけど、いつだよ」
「んー携帯にメールするよ」

嬉しそうに自分の分の生菓子を食べる正守を見て良守は気がついた。
正守は菓子関係については純粋に楽しそうだし、嬉しそうになる。
随分離れて暮らしているし、偶に帰ってきても菓子を食べながら良守にちょっかいを出すからわからなかった。
正守にとって夢中になれるものが一つだけでも、あったのだ。

そうわかると、先程まで考えていたことが少し杞憂にだった気がしたし、少しホッとした。
それから、ならば沢山色々な菓子を作ってやろうと思った。
今日はきっと祖父が帰ってきて、話をしたら帰ってしまうから、夕飯を食べたらある材料で作れるものを今は内緒で。
考え出すと良守も楽しくなる。









「あ、食べたら修行だぞ」
「え」









兄の修行は長引く。
あまり手の込んだものは作れそうにないな…と良守は冷や汗をかきながら最後の一口を口へ放り込んだ。























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結局和菓子より洋菓子好きな兄弟です。


07/07/07

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