桃と桃と良守と










ちっちゃいガラスの器。
掌に乗るくらいで、でも厚めに作られているソレは何個も並んでいる。
買ったの?と訊けば、父へのもらい物のゼリーが入っていた器を取っていたんだそうで。
それはそれはおいしいパッションフルーツのゼリーでな、きっと高かったんだ、だから器もしっかりしてるんだ、と力説された。
そんなとっくに家族の腹の中に入ってしまっているものなんかより、俺は今その器の中に入ってるのが気になるなーと言えば、表情が緩む。

久しぶりのちょっと長めの休暇で帰省することになり気分が良かったので、高めの白桃の箱を買って帰った。
父は嬉しそうに「冷やしてから夕食後に食べよう」と言って家族分の桃を冷蔵庫に。
その横で良守が銀色のトレーの中に入っていたそれを何やら見ていた。
それは何?
そう訊くと桃のゼリーと言われ、父がそうそうと嬉しそうに語ってくれた。

「一箱980円の桃を買ったら、やっぱりイマイチでね。良守にどうにかならないかなぁって言ったらゼリーにしてくれたの。これ、もう食べれる?」

父がそう訊くと、良守は大丈夫とだけ答える。
じゃあ紅茶持って行くから先にそれを今に持って行って、と言われたので俺と良守で人数分(祖父は出かけていたので父と利守と良守と俺の分)持って行くことにした。
その途中での会話。

「上が桃のピューレを使ったゼリー。下がミルクゼリー。こっちにもちょっと桃のピューレが入ってる」
「ピューレってなに?」
「んと、野菜とかを煮込んで裏ごしにしたヤツとかのこと…。これは桃を砂糖で煮込んでミキサーにかけた」
「へえ」

居間に向かう途中で利守に声をかけた。
ゼリーのことを知っていたのか、嬉しそうに出てくる。

「お帰り、正兄」
「ただいま」
「よかったねー、おじいちゃんいなくて」
「そうだな、ゆっくり食べれる」
「酷いな、お前ら」
「良兄だって、だから昼間に出してくれるんでしょ」

洋菓子嫌いと言っている祖父(実は嫌いじゃないと俺は思ってる。多分みんなも)がいるときに堂々と洋菓子を出すことはしないらしい、とその会話で理解した。
素直になればいいのに、と思う。
まぁ変な所で意地っ張りの遺伝子かもなぁと自分と良守を見て思い直した。

「正兄、いつまでいるの?」
「三日くらいかな」
「じゃあ、遊ぼうね!」
「うん、いいよー」

居間について、ゼリーを並べて父を待つ。
待っている間、利守は嬉しそうに学校で流行っていることや勉強のことを教えてくれた。
暫くすると父が美味しそうな紅茶を淹れて持ってきてくれる。
ついでに、果物のゼリーには金属製よりプラスチックのスプーンがいいと、人数分持ってきてくれたそれを受け取り配った。

全員が揃った所で、待ちに待ったゼリーにスプーンを入れた。
二段になっているゼリーを一緒に食べる。
プラスチックのスプーンは一欠片だってゼリーの邪魔をしなかった。流石父さん。

イマイチだという桃を使った一段目のゼリーは少し酸味が強くて、でも二段目のミルクゼリーはしつこくないくらいの甘さで、二つを一緒に食べるとちょうど良い感じ。
そっか、甘くない桃の酸味を利用したのかー。

「おいしいっ」

利守が声を上げて父さんと俺とで頷く。
良守は全員に褒められて照れくさそうだ。

「良守ー俺が持ってきた桃で何か作る?」

イマイチな桃を使ってこんなに美味しいなら、あの桃を使えばきっともっといいものができる。
そう思って言うと、ヤダ、と言われた。

「なんで?」
「だって、アレ美味しい桃だろ」
「多分ね」
「だったらそのまんま食べたい」
「でも、沢山あるし」
「…じゃあ、少しだけなら…」

何がいいかなー…と考え込んでいる良守を見て、俺も何が食べれるかなと楽しみになった。














丑三つ時もとっくに過ぎた夜明け前近く。
仕事を終えた良守を襲って、味わい尽くしたその後、良守は暑いとか言って豪快に裸で俯せた。
俺はそれを見ながら夕食後の桃を思い出す。
皮を剥いて、切り分けてくれたのは父。
手伝おうか、と言ったら断られたけれど、キッチンで皮を剥いているその姿、というか皮を剥かれている桃を見た。
いい頃合いに熟れた桃は、つるんと皮が剥けて綺麗な肌色の果肉を見せびらかしていた。
そう、ちょうどこんな具合。

それはそれは美味しそうに張りがあって、甘そうな雫を垂らして。
豪快に齧り付きたくなる。

「いででででっっ!クソ兄貴!何してんだよ!」

衝動に任せて齧り付いたら頭を蹴られた。

「痛いよ」
「俺のがイテェよ!何なんだよ!」
「いや、おいしそうだったから」
「頭、腐ってんのか」
「うん」
「肯定すんな」

くっきりと歯形の付いたそれを見て、ちょっと力込めすぎたかなと思う。
噛み跡を撫でようと手を伸ばすと、これ以上痛いことされて堪るかとばかりに良守は俺から尻を隠すように起きあがった。
仕方がないので俺は良守の腹に抱きついて、押し倒して尻を撫でた。
つるんとした感触は、ホント気持ちが良い。

「もうしねぇぞ」
「うん、しないしない」

触っているだけじゃ物足りない。
舐めて吸って齧り付いたい。
三大欲求は繋がってるというけど、それならいつか俺は良守を喰っちゃうんじゃないかと思って、そんな自分にこっそり嗤う。
一つになったってきっと餓えが残るだけ。
俺が欲しいのは、良守の身体じゃない。
手中に収めることの出来ない程大きな心が欲しいのだけど、生憎良守はその全てをくれない。
だから、代わりに体中を味わい尽くすかのように犯すのだ。

「良守ってホント桃尻だよね」
「もも…じりぃ?」
「あれ、知らない?」
「知らねぇ」
「元々は馬に乗るのが下手な人のことだけど。最近じゃ桃みたいにつるんとして綺麗な形のお尻って感じかな」
「……っヘンタイっ!触んなっ」

途端暴れ出した良守の拳を甘受して、はははと笑う。
その間もしっかり撫で撫でして、まるで桃の溝をなぞるように割れ目をつ、と辿る。
すると良守の身体がびくんと小さく波打った。
腹部に軽いキスを繰り返して、最奥に指をとどめる。

「や、ちょっと」
「桃にコレは、ないけどね」
「もうしないって、言った!」

未だ俺の精液が中に入っている状態で、入り口の周りも濡れている。
軽く指を押し当てると緩んでいたそこは簡単に俺を受け入れたので遠慮なく掻き回す。
嫌だと首を振るも、一度スイッチを入れてしまえばどうしようもないことを良守は知っている。

「もう、しないって…」
「うん。けどさぁ、おまえの尻が可愛いから」

湧いてきた食欲を抑えることは、生き物としてできないんだよ。
そう言ったら良守の顔は盛大に歪んで、俺の背中を一蹴りだけした。






















次の日、良守が俺の土産の桃で作ってくれた桃とヨーグルトのデザートスープは絶品だった。
ただし、俺の分には飾り用に浮かべられるはずの桃がなかったけれど。











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お馬鹿な話です…。
桃尻を辞典で引いたらエロイ意味がなくてびっくりしました。
随分昔ですが、当時にしては斬新な桃太郎の映画で桃尻という言葉が使ってあったようななかったような。


良守のオケツはかわいいです。
07/08/07

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