過ち 夢を見た。 初めて紅麗を見たときの夢だった。 狂ったヤツだと思った。 人としての心なんてないヤツだと思った。 “悪”なんだと思った。 ぱち、と音がしたかのように瞼が勝手に開く。 緩慢な仕草で起きあがると寒気が来た。 「さむ…」 服を着ていない所為だ。 それでもベッドから下りて、水を飲みにキッチンへ向かう。 何も着る気にもなれなくて。 冷たい床を裸足で歩く。 冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注いだ。 起きたばかりで手の動きも、思考も鈍いが。 さっき見た夢は。 いや、実際にあった過去の映像だけははっきりと脳内に映し出されていた。 仮面を付けた紅麗。 それに対峙した自分。 ひたすら彼を憎んでいた自分。 倒されるべきは彼だと思っていた。 倒すべきは自分だと。 子どもの無知だとしてもあまりにも、傲慢な。 自分の愚かさに目を向けるのがイヤで。 なのにそれが頭の中を支配してやまないときがある。 それが今だ。 もう何年も前のことなのに。 ぎ、とドアが開く音がして振り向いた。 「紅麗」 そこにはちゃんと寝間着を着た紅麗がいた。 今はもう慣れたけど、最初は笑った。 だって、紅麗がパジャマなんて。 ま、浴衣を着てるとも思わなかったけど。 「何をしている」 「水、飲んでる」 「そうではなくて、服ぐらい着ろ」 「だって、またすぐ戻るし」 そう言って俺は手の中にあったコップの水を飲み干す。 「早く戻るぞ」 「うん」 流しにコップを置いて紅麗のトコまで少し早く歩く。 手を取ってぎゅっと握ったら、握り返してくれて。 思わず笑みが漏れる。 過去は消せないもの。 紅麗の過ちも、俺の過ちも。 紅麗の傷も。 消せないけど。 紅麗と手を繋いでいられるから。 それだけでいい。 それだけは誤って手放したくない。 これからもずっと。 ---------------------- ちょっと暗めですが前向き…にしてるつもりなんです。 正義は人の数だけあるのです。 07/01/17







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