雨の音
夢を見た。
雨が降って、行きたい所に行けなくなる。
窓から雨を眺めて、道路に無数に現れては消える波紋を見つめる。
雨の音が、全てを支配する。
不安のようなものに心が支配される。
そんな夢に嫌気が差して、目が覚めた。
窓の外は、雨だった。
窓が少し開いていた。
涼しい夜だったから開けたんだった。
音がうるさくて紅麗が起きるかも、と思ってから横に紅麗がいないことに気付く。
窓を閉めて、服を着て部屋から出た。
雨音は大きい。
きっと、大降りだ。
そっと薄暗いリビングへの扉を開けると、水を飲んでいる紅麗がいた。
「どうした?」
「雨がうるさいから起きた」
俺も、と手を出すと、飲みかけのコップを渡される。
飲み干すと手から取り上げられた。
「もっと飲みたい」
「駄目だ」
「なんで」
「おねしょされたら困るから」
「なっンなガキじゃねぇっ!」
くってかかると、紅麗はクク、と笑う。
からかわれたのだと知り、俺はふてくされた。
「スマンスマン。だが、飲み過ぎは良くない」
「もーいーよっ」
「まだ、夜明けまで時間がある。寝直そう」
紅麗がコップを置いて、俺の手を引いた。
素直に従って、廊下を歩く。
ここは結構高い所にある部屋だから、雨が地面に当たる音はあんまり聞こえない。
だから、窓を閉めてしまえば雨音はそんなに聞こえない。
「紅麗、雨、朝には止むかな」
「台風が来てるからまだ降るだろうな」
「じゃあ、学校休みになるといーんだけど」
学生誰しも思うことだろうな。
けど、社会人は台風でも出社だから大変だ。
電車が止まれば行けない人もいるけど、紅麗は車だし。
「警報が出たら、会社も休みにしよう」
「え?」
「音遠も雷覇も、出てくるのが大変だろう?」
「…自分が行きたくないだけだろ」
「当然だ」
寝室の扉を開けて、紅麗が俺をベッドの奥へとやる。
窓から少しだけ、サーッという雨の音がした。
「雨なのに外に出ると服は濡れるし、荷物も駄目になるだろう?」
「うん」
「だが、室内にいればなにも害はない」
紅麗は俺の横に寝転がって、俺の髪を梳く。
聞き分けのない子どもを諭しているような仕草だけど、逆だと思う。
「それなのにわざわざ外に出るなんて、愚かだ」
「まぁ、うん」
「だから、明日は休み」
「でも、警報が出るかなんてわかんねぇじゃん」
「出るさ」
「なんで」
「なんでも」
「意味わかんねぇ」
警報が出るかなんて、朝にならないとわからない。
朝、6時の時点で出てないと休みじゃない。
台風は逸れることもある。
確率はあっても、確実じゃない。
「朝になればわかる」
「嘘だったら?」
「そうだな、欲しいものを何でも買ってやろう」
「マジ?」
「ああ、だが警報が出ていたら」
「え?」
「お前の明日を一日、貰う」
どっからそんな自信が出てくるんだ、というような顔をして紅麗は言った。
朝、紅麗に起こされる。
時間は6時過ぎ。
「………マジ」
天気予報では、台風直撃。
大雨、洪水、暴風警報が出ていた。
確実に学校は休みだ。
「後で陽炎に電話しろよ」
「……なんて」
「帰りは明日になるって」
約束通り。
俺の一日は紅麗に捧げられることになった。
雨音が、更に激しくなった気がした。
ただ、わいてきた不安は夢とは違い、俺の身体は大丈夫だろうかというものだった。
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紅麗は携帯で天気予報を確認していたので、ほぼ確実に来ることを知ってました。
07/07/22
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