顔で笑って、心で泣いて










以前、良守がウチ(夜行烏森支部)に来たのだけれど、あまりの狭さに気が引けたのか、良守から「行きたい」と言われることはなくなり、その代わり墨村家に頻繁に呼ばれることになった。
良守のオヤジさんに夕食も勧められるが、丁重に断って頂かない。
何故ならその隣にある短パン女の家(雪村)に夕食を呼ばれることが多いからだ。
そんなわけで、今日は秀と一緒じゃなく、俺だけで宿題をしに来ていた。
ついでに良守が作ったというチーズケーキ(試作品)を食べながら、宿題をしたり色々話したり。
と、のんびりしていたら良守の部屋の襖が開き、そこに頭領の姿が。

「良守ー、なんで飴がコーヒーのしかないの」
「は?」
「と、頭領?」

頭領は修行着の格好で、顔を顰めている。
なんでこの人はまたここにいるんだ。
もしかして俺らが知らないだけで結構頻繁に帰省しているのだろうか。
こないだもいたし。

「ああ、閃、いたの。で、良守、他の飴ないの?」
「ないよ」
「なんで」
「切らしてるから」

よく見ると、頭領の口がもごもご動いていた。
そのコーヒーの飴とやらを食べているのだろうか。

「あ、ケーキあるし」

いいなあ、と頭領が羨ましそうに俺達の机の上に置いてあるケーキを見た。
あまりにも居たたまれなくなる程の羨望の視線だったので、俺は思わず、頭領に食べますか、と聞いてみてしまう。
が、良守にイヤ顔をされた。
なんで俺が。

「いいんだよ、コイツのは利守のと一緒に残してるんだから」
「ふーん」
「あ、あるんだ。よかった」

頭領は見た目に反してもの凄く甘いモノが好きで、夜行にいる間は洋菓子は食べないのだけれど(貧乏だから)、どうやら帰省するたびに良守の作った洋菓子を食べているのだろう。 つまり、頻繁にしている帰省は洋菓子目的か、と俺は勝手に納得する。 利守というのは良守の弟で、頭領の末の弟で、ってことは頭領は修行着だし。

「弟さんに、修行をつけてるんですか?」
「うん。今休憩中でさー。なにか甘いモノないかなって探してたら飴があったんだけど」
「ケーキが冷蔵庫にあっただろ」
「先に冷蔵庫見れば良かった。もう、コーヒーの飴食べちゃったんだけどさぁ。これ、マズイよ」

どうにかしてよ、と頭領が良守を見て言った。
どうにかって、どうすんだ。
吐き出せばいいじゃん、と思うんだけど。

良守は、しかたねぇなぁと言って立ち上がり、頭領の所に行く。
何をするのかと思っていたら、良守があーと口を開けた。
それからその良守の口に、頭領が。
ぶっちゅーとキスをした。










俺が頭の中まっ白になっている間に、頭領と良守の短いキスが終わって、頭領は満足げに一口良守のケーキを食って退散した。
んで、良守は口をもごもご動かしていて。

「なんだよ。コーヒー牛乳の飴、うまいじゃんかよ。あ、影宮も食べるか?沢山あるぞ」

と言ってきたのにやっと我に返る。

「な、な」
「なんだよ」

我に返ってもドモってしまう俺に、良守が不思議な顔をする。
それどころか、座り直して普通に宿題を再開しようとしているので、俺がちょっと待てコラ!と叫ぶと。

「なんだよ、うるせーな。飴いるなら取ってくるぜ?」

と見当違いな返事をされる。

「いらね!ぜっていらね!」

こいつら兄弟の口移しを見た後でその飴食べれるか!
っつか、なんだ、あれはこいつらにとって普通なのか。

「お前ら、普通にアレしてんのか!」
「アレ?」
「さっきしただろ!」
「ん?」
「口移し!!で飴食べてるやつ!」
「…してるけど」

それがなに?というように、良守が首を傾げる。
傾げてる場合じゃないだろう、兄弟だぞと言いたかったのだけれど。
良守はどうやら本気でそれが普通のことだと信じているようだ。
頭領は確信犯なのか、コイツと同じで天然に本気で兄弟での口移しがハタチ過ぎても普通に行えるモノだと信じているのか、という疑問に答えを出さない方がいいと判断せざるを得なかった。
だって、どっちにしても答えを聞くのは怖いじゃねぇか。








「なぁ、なんなんだよ?」

憮然とした表情で俺に問いかけてくる良守に、俺はもう、

「なんでもねぇ…」

と言って笑うことしかできなかった。
細波さん、なんで夜行から俺を連れ出してくれなかったんだ…と少しだけ恨み言を心中で呟きながら。









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目撃者シリーズ2被害者閃ちゃん。微妙に「8. ご褒美の飴玉を頬張って」の同軸です。
口移しが日常な兄弟。
利守は嫌がってるので不参加です
拍手で使用していました。
08/03/23

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