ご褒美の飴玉を頬張って

















正守が学校から帰宅すると、弟の良守が嬉しそうに駆け寄ってきた。
いつものことだけれど、いつもより嬉しそうな様子に正守はどうしたのか訊く。
すると良守は正守の手を引っぱった。

「良守?」
「はやくっ」

弟は興奮しすぎているせいかただ早くとしか言わず、正守は要領を得ないまま弟に引っぱられ居間へと連れて行かれた。
そこには父が何か作業をしていた。

「父さん?」
「ああ、おかえり。これ見てごらんよ」

正守に手渡されたのは、人が描かれた画用紙。
空白には大きな花丸と「よくできました」の押し印。
それと大きな字で「にいちゃん」とあった。

「俺?」
「良守が描いたんだよ」

描かれた人物は、拙いながら正守の特徴を捉えていたし、とても丁寧なできあがりだった。
とても幼稚園に入ったばかりの子の描いたものとは思えない。
良守の方を見ると、キラキラした瞳で正守を見つめていた。
褒めて貰いたいのが丸わかりで、正守も苦笑する。

「上手だな、良守」
「先生もねっ一番上手だって!」

正守が褒めると予想通り良守は嬉しそうに状況を話し出す。
話が長くなりそうだと思った正守はカバンを置いて机の横に座り良守の話を聞く体勢を作る。

「お遊戯の時間に描いたのか?」
「うんっせんせーがね、一番好きな人を描いてみましょうって」
「一番好きな人?」

一番好きな人が兄、ということでなんとなく修史が淋しそうな顔をしているが、フォローの仕様がないので正守はそれには触れないことにした。
現時点で、たまにしか帰ってこない母よりも、厳しい祖父よりも、家事と小説に勤しむ父よりも良守の相手をしているのは正守だからだ。
修史はおやつを取ってくるね、と席を立つ。
申し訳ないなという小学生らしくない遠慮もあるが、それよりもかわいい弟に一番好きだと言われ、正守は嬉しくてたまらない。

「うん!そんでね、兄ちゃんを描いてたらね、先生がそっくりだねーって!」
「そうだな、目とか口とかがそっくりだ」
「ホント?」
「ああ、良守は絵が上手だな」
「花丸貰ったんだっ!そんで、兄ちゃんに見せたらよろこぶって!嬉しい?」
「ああ、嬉しいよ。ありがとう」

頭を撫でてやると、良守は高い声を上げながら正守に抱きついてきた。
危うく画用紙が折れてしまいそうだったので、慌てて机の上に置く。
机の上には額縁があり、父がそれを飾っておくつもりなのがわかった。
途端、父親の少し淋しそうな顔に罪悪感を覚える。

「ね、良守。次はと父さんとお祖父さんと母さんも描いてあげなよ。絶対喜ぶぞ」
「ホント?」
「ああ、兄ちゃん、すっごく嬉しかったからさ。父さんやお祖父さんの喜ぶ顔、見たいだろう?」
「うんっ!」

良守が正守の首に抱きついてきたので、正守の身体が後ろに蹌踉けた。
その拍子に正守の身体がカバンに当たり、正守は学校で貰ったものを思い出す。
女の子が持ってきたもので、何種類かの味を全てくれたので良守と一緒に食べようと思っていた飴である。
それを片手で取り出すと、袋を破って中身を良守の口へ押し付ける。

「あーんして」
「あーん」
「ご褒美。おいしい?」
「うんっおいしー」

後日、家族分の似顔絵が額に入れられて居間に飾られた。
その時も良守は正守から飴を貰って、嬉しそうに頬張っていた。




















「って、覚えてる?」
「………なんでテメェはいらんものばっか取ってるんだよ」
「だって、お前がもういらないって言うからさ」
「そんな下手くそのっ」
「ヘタじゃないよ。俺は凄く嬉しかったんだから」
「っ……だからってっ」
「お前もさ、たかが飴くらいですごく喜んでくれてさー。今じゃ高いケーキじゃないと喜んでくれないし」
「だ、だって、飴一つで喜べるのって子どもくらいだろ!」
「えー俺は嬉しいよ?」
「はぁ?」
「お前が口移しで食べさせてくれたら、そこらのパフェなんか目じゃないくらい嬉しいね」
「………ヘンタイ」
「お褒め頂きってトコかな?」
「……(もう何も言えない)」







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スキンシップ過剰兄弟を、と思っていたのですが…。
兄貴が止まらない…んですよっ
コラ兄貴っ父が戻って来るじゃないかーーっと。

遠夜ん中では小学生兄貴も危ないんですね。
やっと自覚しました。遠夜の中で兄貴は変態です…。
ってなわけで収拾がつかなくなりそうだったので余計なスキンシップを抜きにしたらなにがしたかったのか。
という状態に…すみません。
ので会話は取って付けただけのおまけです。会話部分だけ4の続きっぽくなりました。

あ、兄貴ってケーキよりパフェの方が好きっぽいですよね。
今度兄貴に、よくある数人で食べるデカパフェを一人で食わせたいです。
07/09/02

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