仔犬を拾う











良守が反抗期だ。
自分で言うのもなんだが、良守が一番懐いているのは俺だ。
母親は良守が成長していくについれて、帰ってくる間隔が空いていくし。
こないだまた弟を生んだかと思えば、またどこかに行った。
母親がいなければ家のことをするのは父親になる。
祖父は厳しい人だし、修行をつけても子どもの世話をすることはない。
よって、幼い弟の世話は俺がする。
その結果、良守は俺の後ろを金魚の糞の如くついてまわるようになっていた。

初めて出来た弟は勿論可愛かったし、懐かれれば嬉しい。
良守が生まれた時に感じた、自分の居場所が奪われたような感覚は直ぐに消えた。
良守がいる場所が、俺の居場所になったのだから。

それなのに、その良守は方印の意味を知って俺に遠慮し始めて。
そんなもの、お前が生まれた頃から見ているのに。
良守が方印を意識すれば、俺も意識するようになる。
必然的に良守にきつく当たってしまうようになり、ついに良守は俺の後を付いてこなくなった。

今日も修行中、上手く結界を保てなかった良守はバケツの水をかぶり。
溜め息を吐いた俺を傷ついたように見てから、「おれ、こんなのもうしないっ」と走って出て行った。
家の中に気配を感じなくなったから、多分濡れたまま、修行着のまま公園でも行ったのだろう。
もう夕方だな、と日の傾きを見て向かえに行かないと行けないことを確認する。
確認するまでもなく、行かなければいけないのだけれど。

いくらなんでも修行着では表に出られないので、普段着に着替えて公園へ向かう。
日が大分傾いて、辺りがオレンジ色に染まった頃、道路の角に黒い塊を見つけた。
しゃがみ込んで何かを見ているそれは、気配を確認するまでもなく良守だ。

「何してんの」

声を掛けると、ビクッと身体が大きく揺れて、良守は俺を見る。
よっぽど見ている何かに気を取られているのか、俺の気配に全く気付かなかったようだ。
良守が見ていた先には段ボール箱と、その中にいる白い仔犬。
ああ、それが欲しいのか。

「それは持って帰れないよ」

俺がそう言うと、良守は顔をくしゃりと歪めた。
自分でも、よくないとわかっているのだけれど意地悪な物言いを止められない。

別に犬を飼えないわけじゃないし、父さんもおじいさんも説得できる自信はある。
だけど、そんなことしたら良守の修行の邪魔になるのは目に見えて分かる。
だから駄目なのだけれど。

「ウチには斑尾がいるだろ」

乱暴に手を掴もうとすると、でも、と言われた。

「ほっといたら、死んじゃう」

よく見るとその仔犬は、お腹がすいているのか体力が残っていないのか段ボール箱の底でぐったりとしていた。
それが良守は気になっているらしく、悲愴なまでの表情で俺を見る。
駄目だって。
それは、飼えない。
そう思うのに、良守の手を引っぱることが出来なかった。

「……おじいさんには内緒だからな」
「え?」
「今日はそいつを持って帰る。明日、俺が学校で飼い主を探してやる。それでいいだろ?」

一日くらいなら、おじいさんに知られても問題はない。
あの人も厳しいけど、非道な人じゃない。
気付くだろうけど、見て見ぬふりをしてくれるだろう。

良守はビックリしたように目をまん丸くして、俺を見つめている。
それから、いいの?と聞いてきた。

いいも悪いも、そうしなきゃお前ここから離れないくせに。

「いいから。早くそれを抱っこしな」
「うん!」

嬉しそうに良守がその仔犬を抱き上げる。
久しぶりに自分に向けられた笑顔に、何かが少しだけ溶けた気がした。















-------------------------------------------------------------
ブラコン兄貴が書きたかったんです、続くとは思わなかったんです、その時は…。

反抗期っぽい弟にムカツイて意地悪したいなと思いつつも、いざしちゃうと罪悪感に苛まれる兄貴なんです。
本当は弟に大好きだと言われたい兄貴なんです。
07/07/24(拍手で使用していました)

閉じる