ベランダで日向ぼっこ
学校から帰ると、弟が縁側で寝ていた。
日当たりのいい場所で、気持ちが良いのだろう。
まだ幼い弟は夜中の仕事がかなり負担なようで、昼寝をしても辛そうだ。
その弟を横目に見ながら玄関に入る。
「ただいまー」
「おかえり、正守。おやつ出すから居間にいて」
「あー…いや、縁側におねがい」
「縁側?」
「うん、良守がいるから」
「わかったよ」
着替えて縁側に向かうと、良守だけじゃなく利守も昼寝していた。
5つ年下になる利守を良守はすごくかわいがっている。
まるで、俺が良守を可愛がっていた頃のように。
縁側に座って、良守の横に寝ころぶ。
日当たりがよく、弟たちの寝息以外は聞こえない。
目を瞑ってそれに酔っていると、襖が開く音がした。
「あれ、寝てるの?」
「ううん、起きてる」
起きあがって、父さんを見ると良守の分も持ってきてくれているようだった。
「良守、寝てるよ」
「そう。じゃあ父さんが食べようかな」
縁側に並んで、二人で温かい緑茶と和菓子を食べる。
甘いものが好きなのは多分、祖父の血で。
けれど、父さんも嫌いではないらしい。
「ねぇ。俺が良守くらいの頃ってこんなに寝てた?」
「寝てたよ。子どもに夜起きているって言うのは辛いからね」
「ふーん。もうあんまり覚えてないや」
「でも、良守よりしっかりしてたよ」
「そう?」
「うん、守美子さんよりも僕よりも良守の世話をしてくれたのは正守だからね」
「だって、母さんは放任主義だし」
「はは、そうだね」
たわいない話に花を咲かせていると、良守が目を覚ました。
甘い匂いにつられたのか、目を擦りながら俺の方へよってくる。
「食べたいの?」
「んー……」
「良守のを持ってくるよ」
「ううん。俺のまだ残ってるから」
そんなに食べてないおやつを良守に食べるか聞こうとしたら。
良守は俺の膝に頭を乗っけてまた眠り始めた。
「……よっぽど眠いんだね」
「そうだねぇ。おやつを食べるより寝たいんだね」
膝に良守の頭を載せたまま、庭を見る。
庭には斑尾の本体である岩がある。
あれから夜になると犬の妖が出てきて、俺達を烏森へ連れて行く。
それはとても、とても負担なことで。だけれどそれが仕事で。
「俺ね、父さん」
「うん?」
「お祖父さんには内緒にしていてよ」
「うん」
「ホントは。ホントはさ。俺が全部背負えたらよかったのにって思う」
「正守」
「跡継ぎになりたいんじゃないよ。でも、良守が背負うのは嫌だ。良守一人が、全部を背負うなんて」
かわいそうだ、と言うと父さんが俺の頭を撫でた。
それは俺よりも大きな手で、温かい手で。
「お兄ちゃんだもんね。正守は」
その一言に泣きそうになる。
俺は兄だ。良守の唯一の兄。
兄なのに、背負ってやれない。
「父さん」
「うん」
「ずっと、さ。ずっと、こうやって縁側で昼寝できたらいいな」
「そうだね、ずっとこうやっていたいね」
それが叶わないことなのは、俺も父さんもわかってた。
それでも、願っていた。心から。
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ベランダがないので縁側で代用。
07/09/28(拍手で使用していました)
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