風に揺れる
小高い丘に立っていた。
心地よい風に身を任せて目を瞑っていた。
後ろから、馴染んだ妖気が舞い降りるのを感じる。
「無防備だな」
「飛影」
龍のようなものに乗っていた飛影は、それから下りて俺の方へ来る。
いつも鋭い目が、更に鋭い。
それに俺は笑う。
「魔界にいるなんて珍しいな」
「偶に、来たくなるんだよ」
「ほう」
「俺も妖怪だからなー」
これはホントのこと。
周りと差がつき始めて、自分がどんどん置いて行かれるように感じ始めて。
一見、何も変わらない魔界が恋しくなる時がある。
狭くて騒がしい人間界も好きだけど。
広くて静かで、殺気立っている魔界も嫌いじゃない。
むしろ、ここで落ち着いている自分に笑ってしまう。
それはきっと、解放だ。
けれど、俺は捨てられない。
人を、人間を。生まれた世界を。
「なぁ、魔界にも季節があるのか?今日は温かいな」
「……ここら辺りが常春のような気温なだけだ」
「へぇ。そうなんだ」
適当なところに降りたから、知らなかった。
魔界は広いな。
本当に、広い。
「なぁ、飛影」
「なんだ」
「いつか…」
いつか、俺が魔界を選んだら。
お前は受け入れてくれるだろうか。
それとも、そんな弱い俺を嫌うだろうか。
「なんでもねぇ」
「…おかしなヤツだ」
「ハハッ飛影に言われたかねぇなぁ」
考えてもわからない。
そうなってみなきゃわからない。
ただ、今の俺が戻る場所はここじゃない。
それをちゃんと頭の中で確認して。
俺は再び目を瞑って風に身を任せた。
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幽助が30歳くらいのときです。
2007/05/28
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