眠り誘う午後
「お前、何やってんの?」
縁側がちょうと日当たりがよくて。
ジジィもいないし、昼寝でもしようと思って寝そべっていたら。
いつものように気配を断って近寄ってきた兄が声を掛けてきた。
寝入りばなだったので俺はそれを無視する。
俺は寝たいんだ寝たいんだ、だから寝るんだ。
「寝てもいいけどさー」
ならほっといてくれ。
頭の中で呟く。
ああ、眠い。
「よいしょ」
「!?」
身体が何かにひっぱられる。
考えるまでもなくそれが兄貴の腕だとわかる。
目の前が、紺色に染まった。
「何しやがるっ」
「だって、お兄ちゃんの相手してくれないから」
「お兄ちゃん言うなっキモイっ」
「酷いなぁ。ね、寝てもいいからこのままでいてよ」
このまま、と言うのが。
俺は縁側に座った兄貴の膝の上に座らせているのだ。
それも、向き合って兄貴の胸元に顔を押し付けられている。
ああ、身長差が憎いぜ。
「嫌だね。離せバカ兄貴」
「いいじゃない。利守は友達の家だし、父さんは締め切りで籠もってるし。見られたら言い訳してやるし」
ぎゅうぎゅう、と兄貴のバカみたいに力強い腕が俺の頭を抱きしめる。
苦しい、と文句を言おうとしていい匂いがすることに気付く。
斑尾が、匂いなんかしないって言ってたのに。
じゃあ、これは誰の匂いだ。
なんだかムカツイて、腕を突っぱねる。
すると兄貴は力を少し緩めて、俺の顔を覗き込んだ。
「……」
「なに?」
「におい」
「え?」
「なんか、におう」
上目遣いで睨んでしまうのは、この身長差だから仕方がない。
けれど、迫力が欠けてそうで嫌になる。
拗ねているように取られそうで、嫌になる。
「ああ、刃鳥が香を焚いてたな」
「ふーん」
「なに、ヤキモチ?刃鳥は俺の秘書みたいなものだから」
「ばっバカじゃねぇの!?別にヤキモチなんかっ」
「ふーん。良い匂いだろ?これ。時音ちゃんとかはしないのか?」
「知らねぇよっ」
匂いが移るくらい長時間とか側にいるのかよとか言おうとしたけど、またヤキモチと言われそうで黙る。
代わりに、ぼずっと兄貴の胸元に頭を乱暴に収めた。
匂いは、気付くとどんどん俺の嗅覚を刺激する。
甘くて、しつこくなくて、いい匂いだけど。
少し、苛ついた。
「お前も甘いよ。バニラの匂いだ」
「………そりゃ、ケーキとか…作ってるし」
落ち着かせるように、兄貴が俺の背中を軽く叩く。
それから俺の腰を引き寄せて、密着させた。
すると、匂いよりも兄貴の体温を感じてしまって、ふっとんだ筈の眠気が再び押し寄せる。
癪だけど、悔しいけど。
このまま、眠った方が気持ちがいい気がしてくる。
「良守?」
「んー…」
「………おやすみ」
俺は殆ど夢の世界に旅立っていたので。
おやすみ、とは口に出さず心の中で呟いた。
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うおう。
あの黒兄とは別人っぽい…。
でも多分これでよしです。
2007/05/24 back
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