冷たい水
あづい。
呟いた俺に周りは変な顔をした。
妖怪になったのだが、元々人間だった為か偶に極端にが弱まり、体力面で人間に近付くことがある。
普段から妖力をバカみたくさらけだすと怒られるので、そのくらいの変化に気付く側近(のような妖怪)はいない。
だから、暑いと言った俺に風邪ですか、などと訊くのだ。
風邪だったら寒くなるだろうが、とは言わなかったけれど。
今は魔界にいなきゃいけない期間なのだけれど、仕事というか、付き合いというか。
人間界だったら冷房もあるし帰りたいな、と思い始めた頃。
飛影がやってきた。
俺の周りは飛影のことがあまり好きじゃないらしい。
いつか俺を殺そうと思っていることを公言しているせいだ。
そんな相手に仲良く話しかけてる俺のことも不思議がっているが、ほっておいてくれるのは俺が飛影より強いという認識をされているせいだ。
それもわかっているのだろう、飛影は俺が一人でいる時以外はあまり近付いてこない。
俺は別にそれでいいので何も言わなかったけれど、今は周りに他の奴がいるのにどうしたんだろうと思った。
「出かけるぞ」
「どこに?」
その問いには答えず、飛影は自分が乗ってきたよく分からない飛行用の妖怪かなにかの背に俺を乗せる。
俺はこんなものなくても飛べるけど、乗り物の方が楽だからいい。
「幽助さん!?」
「すぐに帰ってくるから、あと頼むわ」
慌てた北神にそれだけ言うと、飛影はどこかへ俺を運んでいった。
そこは俺の知らない世界だった。
綺麗な、透明で冷たい水が流れる滝壺。
まるで、人間界のような景色。
「こんなの、魔界で見たことねぇ」
「探せば結構ある」
「へー」
「ここは、飛べない奴はこれないところだからそんなに他の妖怪もこない」
「穴場ってやつか」
木の生えてない山を幾つも超えて、段々青々とした木々が増えたなと思っていたら、飛影が飛行用の妖怪から俺を落とした。
ええ、と思っているのも一瞬で、次の瞬間には冷たい滝壺の中に落ちていた。
「でも、もうちょっと優しくしてくれよ」
「気持ちよかっただろう?」
「んーまぁ。そだけど」
高い所から冷たい水の中に落ちるというのは気持ちが良いものだ。
水中に落ち込む感覚も、水しぶきも全部。
あとで滝から落ちてみよう、と思うくらい。
暫く俺は水中を泳いで、水面を下から見てみたり、泳いでいる変な形の魚を見てみたりして身体を冷やした。
十分に楽しむと滝壺の側へ座っていた飛影の元へ泳ぎ寄る。
「なあ、飛影はなんで俺の妖力が弱まるのがわかるんだ?」
いつからか、飛影は俺の妖力が弱まる日に限って堂々と俺を攫っていくようになった。
妖力が弱まり、人間に近くなれば妖怪の身体で普通だった気温に耐えられなくなときがあり、暑いと思った時には今のように涼める場所へ、寒いと思ったときには暖かい場所へ連れて行ってくれる。
妖力が弱まる理由も教えてくれた。
俺の身体はまだ完全に妖怪になっていなくて、まだアンバランスな状態らしい。
人間から妖怪になったものや、逆のものはそういう風になるのだとも。
けれど、それは不定期なのに飛影は間違えずやってくる。
「邪眼で見てるとか?」
「バカか。そんなに暇じゃない」
「じゃあ、なんで?」
「さあな」
教えてくれる気はないらしい。
仕方がないので溜め息を一つ吐いて、飛影を滝壺へ引きずり込む。
「また、連れてきてくれよ」
怒るかと思って、そう言うと飛影はまたな、とだけ呟いた。
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飛影は邪眼ストーカー。
07/08/16
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