陽炎








「ねぇ、あれなに?」
「なにが」
「揺れてる」

新しく来た世界で見たそれは、ファイには未知のものだった。
向こうの景色がぼやけ揺れているのだ。

唯一、寒い国の出身であるファイはそれを知らない。

「陽炎」
「かげろう?」
「陽射しで地面が温められて、空気密度が不均一になって光が屈折した結果、景色が歪んで見えるんだよ」

モコナが解説をする。
けれど、小狼以外は首を傾げた。
現象は知っていても仕組みは知らなかったらしい。

「ねぇ、ゆげとは違うの?モコナ」
「ちがうよー近付いたら見えなくなるの。ずっと遠くにしか見れないの」
「蜃気楼と同じです」
「しんきろう?」
「それも知らないのか」
「蜃気楼って言うのは、砂漠などで遠くにあるオアシスや待ちが目の間に見えてしまうことですよ」

ファイは暑い国を知らなかった。
サクラの世界は砂漠だったし、小狼もそこで育っていた。
黒鋼の世界は四季があった。
一人、違うなぁとファイは呟く。
ファイの国には冬しかない。雪が降らない日がない。

「違いませんよ」
「そう?でも淋しなぁ」
「大丈夫、これから一緒に色々見るんですもの」

サクラがにこり、と笑う。
ファイは少し驚いたような顔をした。
それから同じように笑う。

「うん、そうだね。一緒に色々見たいな」










「モコナ、羽はあるのか」
「ないみたいだねー」
「じゃあ、次の世界へ行こう」
「ええ、次はどんな世界かしら」
「…紅葉が、見たい」
「黒たん、こうようってなに?」
「赤い葉のことだ」
「ふーん」






ファイは一つでも、多く共有したかった。
初めから違う存在の人たちと、少しでも同じになりたいと。
それが罪だとわかっていても。








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ファ黒じゃなくてファサクっぽですね。
いや、なんか。ファイって色々、節々で悩んでるのかと。思いまして。
2007/10/02
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