灼けつく太陽















テスト期間は学生に漏れなくやってくる。
例え夜中に結界張って飛び回っていようと、凶暴な人外と戦っていようとそれ
からは逃れられない。
烏森学園も考慮しろよと良守は思うけれど、してくれる筈がない。
テスト期間は学生みんなに平等である。

良守はテストが嫌なのでは決してない。
いつもより早く帰れるし、テスト中も早めに終わらせて眠ることが出来る。

ただ、夏のテスト期間が嫌いなのだ。
ほぼ真昼に終わるテストが終わって帰るのが。

「暑い…」

カンカン照りの中で歩いて帰らなければならない。
寝不足の身体に灼けつくような太陽の光は酷すぎる。
頭がぼーっとして、視界が歪んで倒れてしまいそうだ。
早く帰りたい、早く寝たい。
そんな言葉ばかりが頭の中を周る良守へ、突然影が差す。
雲?と思ったが、空を見ようと上を見たらそこには傘が。
真っ黒の、レースで縁取りされた日傘だった。

「…男がンなもん使うな」
「お前にだよ」
「いらねぇ」
「そ」

傘と一緒にいたのは、良守の兄。
何故だと問うことはしない。どうせ休暇でも取ったのだろう。
そして自分をからかいに来たのだろう。
まったく、どこからそんな日傘なんて。

良守がいらないと言ったからか、正守は日傘を閉じる。
途端現れた憎き太陽に眉を顰めたが、日傘を差して歩くよりマシだと歩き出す。

「ねぇ、良守。お昼どこか食べに行こうよ」
「やだ。父さんがなにか作ってくれてるだろ」
「それがねー出かけててさ」
「は?」
「急に出版社に呼び出されたから、お前をどっか連れてってやってって」

思わず良守が後ろをふり返ると、正守は小さな日傘を左手でプラプラとふり、
右手で一万円札をピラピラと泳がせていた。
一万円、ってそんな昼に必要ないだろう、と良守は父に心の中で思う。

「ジジィは?」
「出かけてるよ」
「……それ、早くいえよ。どこ行くんだよ」
「カレーとかどう?あ、でも一回家に帰るよ、制服じゃ街中彷徨けない」
「…じゃ、出前でいい」

暑いのに、帰宅するだけで体力使うのに、家に帰って着替えてまた外に出るなんて。
日が暮れてからなら考えて遣っても良いけれど、こんな時間帯に活動的になれ
る良守ではなかった。
ふり返った身体を元に戻して自宅へと歩みを再開させる。
その背中に、正守のわざとらしい溜め息が当たる。

「カレー屋さんのカレーじゃなくてね、紅茶屋さんのカレーなんだけど、ランチ
のデザートの紅茶ゼリーが絶妙でさぁ。単品でも頼めるんだけど、辛いカレーを
食べた後の方がおいしい気がするんだよね。んで、そこテイクアウトできない
から、行くしかないんだよね。行かないの?行かないならいいよ、残念だなぁ」

兄は弟の手綱のひき方を知っていた。
悔しいけれど、やり方は卑怯だと思うけれど、良守は足を止める。
熱さで頭がふやけて、兄に素直に従う以外ゼリーを食べる方法が浮かばない。
だって、良守はその店の場所を知らない。

「……行く」
「そう、よかった。じゃあ家に帰ろう」

良守には勝手に自分の手を引いて歩いた正守の手を振り払う体力も残っていなかった。



























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兄が持ってる日傘は思いつきで買ったものです。
良守の嫌な顔を見る為に。
多分刃鳥さんとかにあげると思われます。

2007/07/17

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