舞いだした風花
深まった秋に、夜風は冷たくなって恋次は歩きながら体が震えるのを感じた。
仕事で帰宅が遅くなったことを恨む。
恋次の体格は下級死神の中でも大きいと言えるが、大きい分風に当たる面積も大きいから、寒いもんは寒いんだと恋次は呟いた。
どうも、髪の毛の色の所為か寒がりだと言うことを信じて貰えないことが不満なのである。
今はただ、温かい床が恋しくて恋しくて堪らない。
しかしまだ、報告の為の書類を書いて提出しなければならない自分の身も憎らしい。
こんなときは、温かいあの人の側が一番いいのに、と思ってから首を振る。
仕事に関しての甘えは、誰にもぶつけてはいけないし、特にあの人にはと。
恋次は人気がなくなって、静まりかえっている六番隊の詰め所に足を踏み入れた。
蝋燭に火をつけ、報告書を書く為に机に向かう。
悴んだ手が秋の終わりを告げているようで、ふうと息を吹きかけ温める。
けれど、直ぐに冷たくなる手にそれを諦めた。
さっさと、終わらせるほうがいいと。
倒した虚についての詳細と自分の署名を書いたものを、上司の机に放る。
何か不備があればまた、明日出勤した時に言われるだろう。
今日の仕事が長引くことが分かっていたのか、上司は恋次に次の日は遅出でいいと言っていた。
明日は、遅出でいい。
そう思った途端、恋次の足はあの人の元へと歩き出す。
甘えたくない。でも、温めて欲しいと思う。
詰め所を出た所で、冷たい風が強くなっていることに恋次は気付く。
早く、早く。
ぎい、という廊下が軋む音に遠慮しながらも足が速まった。
夜も更けたにも拘わらず、明かりがぼんやりとついていた障子を開けると。
その人は、ゆっくりと恋次笑いかけ、恋次はそれにホッとした。
こんな甘えは、罪じゃない。これは、彼にだけ求めているものだから。
そう教えてくれた、その人の側に行く為に恋次はそっと障子を閉めた。
「恋次、朝だよ」
「今日は、…遅出で…」
「うん、知ってる。でも、起きて。雪が降り始めたよ」
「ゆき?」
確かに昨夜は寒かったけれど、雪が降る程だっただろうかと思い、のろのろと布団から這いだして肩からズレ落ちた着物を直しながら恋次は開いた障子の向こうを見る。
ひらひら、と白いものが空から降ってきていた。
それは地面に落ちると同時に溶ける。
空は、雲が高く気持ちがいいほど晴れているのに。
「…ゆき…?」
「向こうの山の、だろうね。昨日から風が強いから」
「風花ですか?」
「よく知ってるね」
「知ってますよ」
ふくれてみせると、ごめんと頭を撫でられる。
赤く、長い髪の毛に指が通り、寒さの所為ではなく恋次の体が震えた。
そのことに、微笑を洩らされ文句が口から出る。
「寒いです」
「ああ、ごめんよ。でも綺麗だろう?ここの庭は雪が似合う」
言いながら、恋次は上にのし掛かられて驚き逃げようとしたが細腕で自分より力のある相手に敵うはずがなかった。
ひゅう、と吹いてくる風に焦る。
「仕事、あるんでしょう?」
「いいよ、少しくらい遅れても、市丸が困るだけだから」
「だめです、よ」
折角合わせた着物の衿から手を入れられ、恋次は困った顔をするが、微笑で返された。
その顔には、恋次は逆らえない。
「ずる…」
「ずるいのは恋次だよ。かわいくて仕方がない恋次だ」
「…障子、」
「だめ。綺麗だから見ていたいだろ?」
ぐるり、と体が反転し恋次の顔が庭へ向く。
ふわふわと漂う雪に、一瞬見取れたが、忍び込んできた掌に目を瞑ってしまう。
それがわかったのか、顎を捕まれた。
「見てて?僕は恋次だけを見て、恋次だけを触ってるから。僕の代わりに」
言葉と共に背中に降りてきた唇の感触に震えながらも、恋次は目を閉じることを耐える。
恋次は必死に目を開ける。
気持ちよさに頭が思考を放すまでになることがわかっていたけれど。
望まれることに応えることが恋次の喜びだったから。
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んと。
藍染さんの名前が出せませんでした。よくあることです。
風花っていうのを体験したことがなくて。よくわかりません。
でも、晴れてるのに雪って言うのは綺麗で良いですね〜。
晴れてるのに雪が溶けないのもスゴイです。
2007/11/12
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