張り詰めた星空











月のない夜が嫌いだった。
毎夜妖退治を繰り返す職業に身を置いている良守としては、夜目が利くとはいえ少しでも明るい方が良い。
新月の日は妖を見つけにくいし、闇に紛れようとして妖の数自体増えてくる。
けれど、それだけではなかった。
月のない日は、月が見えない日は。
まるで月にまで見放されてしまったような、そんな気になっていたから。




その原因は家を出た兄だった。
兄はいつも月を背負っていたように良守は見えた。
幼い頃、兄を見上げるといつもそこには色んな形をした月があった。
勿論新月の日にも一緒に仕事をしたはずなのだけれど、何故か兄を思いだすといつも月が出てくる。
だから兄が久しぶりに帰ってきてその額のど真ん中に三日月の形をした傷跡を持って帰って、その傷に位置に父が驚き心配している横で、良守は兄の欠けていたピースが見つかったような気になっていた。
その傷はまるで兄と一緒に生まれてきたかのように自然に思えたのだ。
そんな兄を連想させる月がなくなると不安や哀しみとはまた違った、胸を締め付けられる思いになる。
良守はずっとそれがなんなのかわからなかった。
けれど、つい最近理解した。






「よしもり」

聞こえた声に、良守は目を開ける。
一人、時音も白尾も斑尾も帰った烏森の上空に作った結界の上で横になっていた良守は、新月の夜にはないはずの三日月を見つけた。
三日月は近付いてきて見えなくなってしまったので、良守はまた目を閉じた。
唇にかさかさの、だけれど柔らかいものがあたって直ぐに離れる。

「そんな格好で寝て。寒いだろう?」

三日月は、良守に極上の笑みを渡して抱きしめる。













良守は月のない夜が嫌いだった。
けれど。
月のない夜が待ち遠しくなった。
それは、三日月が必ずやってくるからだ。
月のない、闇夜に溶けるようにやって来て良守を連れ出すのだ。
良守を見放したと思っていた月が、やって来る。
そのことに良守はあの胸の苦しさが「恋しい」という思いだと知った。







「よしもり、今日はどこに行こうか」

そういう三日月の後ろにはただ星が輝いていた。













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三日月と夜デート。
08/04/14

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