思えばあの頃。 未来なんて考えたことなかった。 今がずっと続くとも、思ってなかった。 ただ、今を生きていればそれでよかった。 後ろから抱きしめる 『今』は『今』。 それはいつまで経っても変わらない。 ただ、大事なもの殆ど消え失せた。 蛍子。 愛した只一人の女。 かーちゃん。 誰よりも俺を愛してくれた母。 オヤジ。 顔なんざ覚えてないけど。 桑原。 大事な、親友の一人。 それだけじゃない。 生きていた、知っていた。 俺を好いてくれていた人みんな。 もう誰もいない。 守りたかったものは、全て消滅したんだ。 妖怪の一生なんて永遠に近しい。 まして、力のある俺なんか。 誰も殺してくれないし、殺される気もない。 だけど、空虚だ。 だって、俺は。 人間として生きていた時に形成されたのが、俺だから。 身体は妖怪でも、人間と違うって言われても。 やっぱり、俺は人間に近い。 妖怪と、人間とじゃぁ。 どっか違う。 人間は儚いから、精一杯愛して、愛されて。 だから、だから。 こんなにも懐かしく忘れられない。 蛍子の写真を見て俺は静かに泣いた。 結婚はした、だけど俺を置いてアイツは死んだ。 左手の指輪を見ると、錆びていた。 この指輪が綺麗だった頃。 アイツはもっと綺麗だった。 写真は、色あせて本当のアイツではなくて。 俺だけは、写真のように色あせたりしない。 「死にたいか」 声が後ろから、唐突にした。 聞き覚えのある、だけどとても久しい。 「殺してやろうか」 うなじに、鋭くて冷たいものが充てられる。 「…俺を殺したらお前が殺されるんだぞ」 「だが、お前を殺せるのは俺だけだ」 そして、殺していいのも俺だけだ。 そう、呟いた。 そう、俺を誰も殺せない。 魔界にだって、俺を好いてくれるヤツはいる。 俺が魔王になって、付いてきてくれているやつが沢山いる。 それが私欲だろうと、純粋に慕ってくれているのだろうと。 そんなヤツらに守られて、そしてそんなヤツらのために今、生きている気がする。 死にたいと聞かれれば返事はNOだ。 だけど、このまま生きていたいかと問われても、答えはNO。 「俺を殺して、どーすんの」 「お前の死体を抱えて逃げれるとこまで逃げてやる」 「いーな、それ」 俺がそう、笑うと。 ソイツは。 多分、笑った。 そっと、鋭いものはうなじから外されて。 後ろからきつく抱きしめられた。 「死にたいか」 「別に」 「自由になりたいか」 「…」 「逃げるか」 「どこに」 「さぁ、地の果てか、この世の果てか。行き着くとこまで行ってみるか」 「ああ、連れていってくれ。飛影」 そこに、何があるか。 もしくは何もないか。 わからないけれど、それでも。 コイツと一緒なら、また、今を生きれるんじゃねーかな。 そう、思って俺は。 全てを捨てた。 あの、何も考えていなかったころのように。 ---------------------------------- 飛影×幽助第一作。 未来設定です。 多分100年くらい先の話。 100年あれば幽ちゃんも魔王になっているでしょう。きっと。 飛幽の基本ってエロだと思うのでエロが書きたいです。 書けたらの話ですが。 幽助の強さって、強さへの執着と。 守る人たちがいたから、あんなにも強くなれたのだと思います。 だから、魔族になることは彼にとっていいことだったのかそうでなかったのか。 お父上のように只一人の人間を想って死んでいくような、可能性だってあると思います。 だから、常に彼には、誰か仲間や守るべき人が必要だと思います。 いつまでも彼が彼らしく生きていられるように。

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