絆創膏越しに触れる 夕立は誰の都合も無視していきなり訪れる。 烈火の下校中に降り出したものだから、傘など持っていなくて。 濡れながら、烈火は紅麗の自宅へ向かった。 合い鍵で紅麗の部屋に入ると、そこにはやはり紅麗はいない。 仕事中なのだから当たり前だ。 雨の所為で薄暗い部屋を濡らすわけにはいかず、出来るだけ気をつけて烈火はバスルームに向かう。 制服を乾燥機に放り込みながら、ふと洗面台の大きな鏡に目を移すと。 絆創膏が剥がれかけているのが目に入った。 少しだけ迷って、烈火はそれを勢いよく剥がす。 雨に濡れた所為で大した粘着力も残ってなく、簡単に剥がれたそれを洗面台に落とした。 表れたのは、身に覚えのない傷跡。 これは紅麗が付けた物だという。 幼すぎて烈火は覚えていないが、紅麗はそう言った。 そして。 この傷跡が残っている限りは自分の物だと。 そう、言った。 その日は、偶々絡まれてケンカした。 ケンカなんて久しぶりで、烈火は加減を忘れて相手をしたのはいいけれど。 左頬に引っ掻き傷を作ってしまった。 恐らく相手のしていた指輪かなにかが掠ってしまったのだろうと。 その時の烈火は何も気にせず、手当をしないまま紅麗の元へと向かった。 仕事で帰宅の遅い紅麗を、烈火はいつも通り待つつもりで。 しかし、その日は偶然。 紅麗が早めに仕事を終わらせて既に自室に戻っていた。 玄関を開けて、烈火がリビングに行くと寛いだ紅麗がソファに座っていた。 「紅麗っ帰ってたのか」 紅麗を見つけ、嬉しそうに寄っていったが、紅麗は烈火の格好に目を剥いた。 制服は土埃だらけだし、細かい傷や軽い痣などが上半身や顔に目立っていたからだ。 烈火は紅麗の視線に、自分の格好を思い出す。 「あ、ケンカしちゃって…」 言い訳するようなことなのだろうか、と思いながらも紅麗にキツイ視線に烈火はぼそぼそと言った。 紅麗は立ち上がり烈火の顎を掴んで上を向かせた。 怒っている。 ケンカをしたことに怒っているのだろうか。 でも、何故? 烈火は動揺したまま、紅麗を見上げた。 紅麗の手が烈火の左頬に触れ、烈火が思わず目を瞑ってびくっと震えた。 「烈火」 自分を呼ぶ紅麗の声に、烈火はそおっと瞳を開ける。 そこにはやはり恐い紅麗がいて。 だけど、こんどはちゃんと目をしっかりと見つめた。 「烈火、ケンカはもうするな。跡が残るような傷を残すな」 そう言うと紅麗は、自分が付けた烈火の傷を絆創膏越しにそっと触れる。 存外その手は優しくて。 烈火は小さくうん、と頷いた。 そうして紅麗は素直に頷いた烈火に、ご褒美のように口付けて。 「その傷が消えない限り、お前は私の物だ。他に痕をを残すな」 と、言った。 それから烈火はケンカを避けている。 どうしても避けようのない場合で、怪我をしてしまったときは暫く紅麗の元へは行かない。 それでも跡を残すような傷は作らない。 執着する紅麗に応えて。 また、紅麗がいつまでも自分に執着するために。 烈火は新しい絆創膏を出すと、綺麗に貼って。 紅麗が帰ってくるまでの仮眠として、ソファで眠った。 紅麗の匂いに包まれながら。 ---------------------------------- このお題で絆創膏を使うのはきっとあたしだけではなかろうか。 あはは。 あ、そうだ。 絆創膏ってなんていいますか? バンドエイドとかですか? 遠夜の地元って基本的に「カットバン」って言うんです。 そりゃ品名だろーと。 県外の友達が言いました。 言われるまで気付きませんでしたよ。 遠夜は一応他県から生徒が沢山来る学校だったので直したのですが(絆創膏に) 家で絆創膏とか言うと、「……カットバンね」と、言い直されます。 家じゃなくても遠夜の地元はそうみたいで。 どこからそうなったのかわかりませんー。 あ、バンドエイドも商品名ですね。 アメリカのだっけ。

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