貴方が居ないと何も出来ない
欠乏症
あの人に触れられなくなって、何日が経つのだろう?
泣いて泣いて赤く腫れた瞳、もう貴方を映す事は許されないのですか?
「・・・はぁ・・・・・。」
もう今日になって何回目か分からない溜息を一つ、盛大に吐く。
家に居る時に気分が沈んで来たから気分転換に散歩に出かけたけど、
道行く人の一つ一つの行動が気になって仕方が無い。
『あの時あいつだったらこうするのに』とか『あいつだったらこう言うのに』とか。
どうしてもそんな事ばっかりが気になっていつの間にか逃げるように走り出してい
た。
なるべく人通りの少ない道を選んで、
やっと子供一人居ない無人の土手に辿り付いた。
ゆるやかな斜面の坂には若草色の草原が一面に広がっている。
ふわりと吹いてきた風にさわさわと揺れる草原は
とても涼し気に見えた。
少し進んだところに丁度涼むのに良さそうな一本の木を見つける。
一面の草原に立つ大木は、とても強くて大きくて・・・優しい印象を持った。
風が吹くたびに揺れて脚に触れる草原にくすぐったさを感じながら、
一歩一歩、ゆっくり近づいて、木の根元にどかっ、と座った。
また風が吹いた。
前髪が揺れる。
頬を撫でる風が、いつもよりずっと優しく感じた。
涙が、頬を伝う。
あいつが居なくなって、寂しかったけど、
やっぱ皆には心配掛けたくないから、ずっと笑ってた。馬鹿みたいに。
・・・笑ってた、・・・つもりだったけど・・・・・。
皆には、ばれてたらしい。
いつも日替わりで一人づつオレの所に来て、
他愛の無い話をして帰ってく。
そんな、毎日。
皆はいてくれるけど。
皆優しいけど。
皆の事大好きだけど。
心にポッカリ開いた大きな穴は、“皆”でも埋まらなかった。
“皆”じゃ埋まらなかった。
涙が、止まらない。
そう、それはまるで、
パズルピースの、無くしてしまった一欠片。
他のピースが幾つあっても埋まんなくて、
“ソレ”じゃないと駄目なんだ。
絵が、完成しない。
止め処なく溢れてくる涙は、留まるところを知らなかった。
否、止めようと思わなかった。拭おうとも、思えなかった。
風が、優し過ぎる。
全身を包み込んでくれるような暖かい風は、まるで、
あいつに、紅麗に抱締められてるような、その時の温もりと同じで。
優し過ぎるんだ。
気付けば、自分で自分を抱くように、守るように、
自らの肩を、強く握り締めていた。
手に、力が篭る。
掌に、じわりと汗が染みる。
瞳を閉じて、風を、感じる。
紅麗は、居ない。
代わりも、ない。
変え様のない事実。
優しいのは嘘。
痛いのは現実。
心が、悲鳴をあげる。
慢性的な痛みが、身体を支配する。
少しずつ病んで行くのを受け止めながら、
“受け止める”自分を否定したくて、そっと瞳を開ける。
飛び込んできたのは
紅
誰も代わりを務めることが出来なかった“紅”
忘れる事の出来ない、強い紅を放つ火炎の瞳。
赤みの強い、それでも綺麗な黒髪が、風に靡いてさらさらと揺れた。
痛みが、引いていく。
身体を犯していたウイルスが、増殖を止めた。
「―――――・・・紅麗っ・・・・・!!」
逢いたかった人。
足りなかったモノ。
パズルピースの足りない一欠片。
完成しなかった絵。
心の穴。
全てが、満たされて行く。
この身体を包んでくれているのは、風じゃない。
偽りでもない。
強くて、優しい両腕。
足りなかったモノ。
求めていたモノ。
瞳が、合う。
涙で、掠れて見えた紅麗。
でも、優しく微笑んでくれていたのは、充分に分かった。
「・・・んっ・・・。」
重なる唇。
角度を変えて、何度も何度も。
心に開いた大きな穴が、少しずつ、少しずつ、埋まっていく。
薄く開いた唇から、そっと紅麗の舌が入ってくる。
舌先がコッチの舌先に触れて、あぁ、コレってキスなんだな、ってようやく理解し
た。
焦らすようにゆっくりと絡められる舌。
物足りなくってコッチの方から強く絡めた。
だらりと伸びていた腕も、いつの間にか紅麗の首に抱付くように絡められている。
その腕に力を込めて、互いに激しく求め合った。
「烈火」
低音の、優しい声。
好きな音。
新しい涙が、また込み上げてくる。
優しく啄ばむような、キス。
触れられた個所全部が熱い。
なんで此処に居るの、とか
何処に行ってたの、とか。
今はそんな事どうでも良いから。
とにかく、貴方だけを感じていたい。
もうずっと離さないで。
-END-
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水無月 翡翠様の1000HITフリーを頂きました。
1000HITおめでとうございます〜〜v
遅くてごめんなさいです><
切ない烈火くん、いやんなくらい可愛いです。
ぎゅうっとしたいです。
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是非ゴーしてください。
04/06/02
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