代償










あまりにあんまりな言葉に良守は怒鳴るよりも先に結界で兄を吹き飛ばそうとした。勿論、滅するのではなく脱衣所から、である。
しかし、それよりも早く正守が良守の右手を小さな結界で固定し印を結べなくしてから、怒鳴られても構わないようにか脱衣所も防音結界で囲った。
印を結ぶどころか、結とも言っていない上にそれをしたのが寝起きの兄だということに実力の差を見せつけられた気がした良守は、うぬぬ、と結界に囲まれた右手首を動かすことに気を取られてしまい、正守が近付いたのに一瞬気付くのが遅れる。

「え」

正守が良守の肩を掴むと同時に右手の結界は溶けるように消えたが、その行動の意味がわからず、良守は兄を見上げた。
少し縁が赤くなっている目は、蛍光灯の影になっている所為か真っ黒で、何故か背中が震える。

「あに、」

呼びかけるよりも早く肩が押され、良守は風呂場への扉に接する結界に寄りかかることになった。近付いた兄からは酒の匂いがし、良守が眉を顰め身体を動かすのに正守はびくともしない。

「この酔っぱらい!」
「酔ってないよ」

このやりとりに、良守は三年前を思いだす。
三年前、兄が最後に帰省した夜のこと。
思いだすだけで良守の背筋がぞくりとし、それを誤魔化したいのに正守がのし掛かって動けない。

「兄貴、どけって」
「ホント、小さいし細いね」

するり、と腰に布の感触がして良守は抱きしめられたことに気付いた。
酒臭さと素肌に感じる他人の衣服が気持ち悪く、抵抗するががっちりと押さえ込まれていて動けない。

「あに、あにきっ」
「もうちょっと大きくなってると思った。俺の弟だし」
「まだ成長期なんだよっ」

焦っているにも拘わらず、兄の失礼な言葉につっこんでしまうのは最早反射かもしれないと良守は頭の片隅で考えた。
その間にも抱擁の力は強まり、三年の間に増えた傷を撫でる。
指の冷たさに震えた良守に構わず、正守は傷の数を数え始めたが暫くして諦めてなぞるだけになる。

「傷、増えたなぁ。もうそろそろ気をつけないと一生残るぞ」
「う、うっせ!ほっとけ!」

三年の間に成長した弟に感慨を抱いているのか、ただ心配なだけか良守には分からないが、正守に触れられるのがイヤで仕方がなかった。
特に傷跡は皮膚が薄く、なぞられるたびに身体が反応を示すのに兄は平然としていることが悔しい。

「傷跡触るなっくすぐったいんだよ!」
「嘘吐き」

良守がそう言った途端、正守の口調がハッキリしたものになった。
先程までは寝ぼけているような酒に呂律を奪われたような口調だったのに、その変化を理解できずに良守が思わず正守を見る。
止まった抵抗に正守は微かな笑みを口元に乗せながら、また嘘吐きと言う。

「成長、少しはしたか」
「っあ!」

冷たい手が良守の太ももを滑り、中心へ触れた。そこは先程まで正守に体中の傷を撫でられていた為か、少しだけ反応を示していた。
自分の身体のことだから良守も気付いてはいたのだけれど、ホントに少しの変化だったからまさか正守が気付くとは思っていなかった。
上から下へとなぞられて良守の背が反り、中心が少しずつ硬くなり始める。

「ちょ、やめろって!」
「うん、前よりは太くなったし」

昔より随分硬くなった茂みを逆なでされ、それから今度は揉みし抱くように全体を手のひらで包まれる。
そうされるとあっという間にそれは腹に付く程反り返り、少しずつ先から涙を零し始めた。
自分の下半身から聞こえる水音が恥ずかしくて堪らなかった。
下を向きたくなくて正守の着物の袖を掴み、縋るような体勢になってしまう。

「あ、あ、や、」
「硬くなるのも早くなった?」

先端を硬い爪で優しく撫でられ、ついに良守の足が力を失った。
がくりと崩れ落ちた良守の腰を支え、正守がゆっくりと床に座らせる。
けれど、その間も手を動かすことは忘れない。
結界に頭を預け、嫌々をするように首を振る良守の首筋に正守が顔を埋め、鎖骨のへこみを舐めた直後、良守の身体が大きく震え、正守の手のひらの中に白い液体を放った。
それを指に絡め、正守が何かを確認するように見つめた。

「薄い。自分でするの?」

息の荒い良守に正守が確認すると顔を逸らされた。
それが答えなのだろうけれど、18にもなって自慰をしない方がおかしいのだから何も恥ずかしがることないのに、と正守が笑ったのに、良守がぎり、と歯を噛みしめる。
そんな良守に笑みを崩さぬまま、正守は耳元へ囁く。

「誰を思ってするの?時音ちゃん?お前の部屋、エロ本とかなかったし」
「!」
「それとも、もう女の子を抱いた…?」

ゴン!とついに良守が勢いよく正守に頭突きした。体勢が悪かった為そんなに威力はなかったが、思わず舌を噛んだのか正守が口元を押さえ、涙声で訴える。

「い、いたいよ」
「ざ、けんなっ」
「なにが?」

良守が何に怒っているのか、おおよそ予想はついているだろうに、しれっと言う正守に良守が怒りの目を向ける。

「お前に、んなこと、言われる筋合いはない!」
「なんで」
「なんでじゃねぇ!三年前も、今も!」

先程までの行為で瞳の縁に涙を湛えたまま、鋭い目つきで良守が怒鳴った内容に正守がにやりと笑う。
けれど、涙で視界がぼやけていた良守は気づけなかった。

「おれに、なんでこんなことすんだよ!」









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既に手を出していた兄貴。
08/01/18
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