incest 烈火が紅麗の事務所を訪れたのは、約束をしていない日だった。 紅麗が特別忙しいと言わなければ、烈火は思いつきでよく顔を出していたら、 特に誰に咎められることもなく、烈火は紅麗の部屋で待つことにしていた。 その時、紅麗は留守だったから。 雷覇は紅麗と一緒に出かけたらしく、烈火は音遠にだけ断って紅麗の部屋で寛いでいた。 紅麗の部屋、つまり社長室は事務所の一番日当たりがよく、窓が大きな部屋だった。 ソファも黒い革張りで柔らかく、座るだけでなく寝心地も良いので烈火のお気に入りである。 そこでよく寝ては音遠に叱られている。 その日は眠くなかったので、烈火は自分で飲み物を用意して、買ってきたスナック菓子を食べていた。 ふと窓の外に目を遣ると、大きな窓からは青い空と雲が見えた。 太陽の光は直接は入ってきてはいなかったが、机には書類の影が出来ている。 その中で、本でもなく、書類でもない厚さの、例えるなら、そう。 何か薄いのを中に収めるファイルみたいなものが烈火の目に入った。 普段なら、紅麗の仕事関係のものは見ない。それが高価に見えれば見える程、手など触れない。 けれど、その時の烈火は何かに惹きつけられるかのようにそれを手に取った。 皮のような感触を持ったそれを開くと。 綺麗な着物姿の女性の写真が、あった。 その人は、少しだけあの女性に似ている気がした。 紅麗が最も愛した女性に。 烈火はこれが見合いの写真だと直ぐに気付く。 心がざわつくのに、心臓が嫌な音を立てるのに、烈火の頭は冷えていた。 この見合いを紅麗が受けるにしても、結婚することはないことを十分すぎるくらい分かっていた。 けれど、それではいけないということも分かっていた。 ただ、それに真正面から向き合いたくなかった。 紅麗とともにいることが、夢のように消えてしまうのが嫌だったから。 しかし、目の前に突きつけられたことで一気に覚醒したかのように脳内がクリアになる。 紅麗とともに生きていくことは、不可能だと。 それでも、烈火は少しでも先延ばしをしたくて写真を元の通りに戻す。 それから何も見てなかったかのように、ソファに寝ころんだ。 少し眠りたい。 心臓が苦しくて、眠たくもなかったけれど、烈火は無理矢理目を閉じて、眠ろうとした。 ------------------------------------------------- えっと。烈火くん大人になるの巻。 になればいいなぁと思ってます。 07/06/01 next