incest 「烈火」 呼ばれて、烈火が目を覚ますと紅麗がいた。 窓から見える空はもう暗く、夜であることを教えていた。 烈火が来てから、かなりの時間が経っているようで、その差に烈火は一瞬だけ混乱する。 「仕事終わったから、一緒に帰ろう」 出かけていた紅麗が戻ったのがいつかはわからないが、どうやら仕事を終わらせるまで烈火を寝かせていたらしい。 それはよくあることなので、烈火も直ぐに理解した。 「ん…」 目を擦りながら、ソファに横たえていた身体を起こすと、紅麗が手を貸してくれる。 その手を取って、烈火は立ち上がり紅麗に抱きついた。 「烈火?」 「……ねむい」 「夕飯を食べないといけないだろう?ちゃんと起きろ」 子どもを宥めるような声で紅麗が烈火を諭そうとする。 それに烈火が苛ついた。 いつもなら心地良いはずのそれが、何故か。 いや、何故かなんてわかっている。所詮、自分と紅麗は「兄弟」だからだと。 でもここでごねると、紅麗を困らせてしまうし、それ以上に「兄弟」の枠にはまることが嫌で、烈火は素直に紅麗から離れた。 「目が、まだちゃんと開いていない」 くすくす笑いながら、紅麗が烈火の目元にキスをする。 慈愛に満ちたようなそれに、烈火が目を瞑ると紅麗は烈火の唇にも軽くキスをした。 今度はそのキスに少し気分が上昇して、烈火が紅麗の手を握る。 すると紅麗もゆるく握りかえしてきた。 烈火が慈しまれているのは、弟だからだ。 唯一の肉親だからだ。それは烈火にもわかっている。 ならば、どうしてこんな風にキスをしてくるんだっけ?と烈火は軽いキスの繰り返しを受けながら考えていた。 ---ああ、そうだ。俺が好きって言って。紅麗が受け入れてくれたからだ。 どうして紅麗は受け入れたのだろうか。 もしかしたら、自分がたった一人生きている肉親だからだろうか。 弟だからだろうか。 自分の気持ちは、兄の加護を求めている幼い弟のそれではない。 そう思っていたけれど、それも違うとは言い切れない気がした。 柄にもなくネガティブになっている、と自分でも分かっていたが、烈火には止めることはできない。 最初から普通じゃない兄弟に、普通の感情など芽生えないのかも知れない。 だからこれも、ねじれた先にあった兄弟の形なのかも知れない。 そんなことを考えていたら、紅麗が烈火から離れた。 「どうした?」 「………」 「烈火?」 「腹、減った」 誤魔化す手段なんて知らなかったから、烈火は紅麗が言った「夕飯」に合わせてそう言う。 実際空腹感は少しあったし、食欲があったわけではないが、食べることで気が紛れる気がした。 紅麗は少しいぶかしんでいたけれど、すぐに烈火の手を取り部屋の外へと歩き出す。 「何が食べたいんだ?」 「なんでもいー」 「じゃあ、パスタでもいいか?」 「紅麗が作るのか?」 「今日は家でゆっくりしたい気分だからな。早く夕飯を済ませて」 いいだろう?と紅麗が聞けば、烈火が否という筈がない。 わかってやっているのか、わかってないのか、烈火にも分からないけれど、烈火も素直に頷いた。 店へ行けば気が紛れるかもしれないけれど、今は自分たち以外の人間を見たくなかったのだ。 それがただの逃げだと言うことは分かっていたけれど。 ------------------------------------------------- 疑心暗鬼になる弟。 07/06/15 back next