雷覇は戻ってくるときには、パンとスープではなくシチューと果物も持ってきてくれた。
まだ身体が変化しきってないから、消化に良い方がいいとコックに言われたらしい。
コックまでいるのか、と思ったけれどそれは口にしなかった。

「あの、ありがとう」
「いえ、紅麗様の弟君の為ですから」

紅麗の名前が出て、なんて返せばいいのかわからず黙ったままシチューを一口食べた。
それは久しぶりの温かい食事で、身体に染み渡るようだった。
シチューの中にはにんじんもジャガイモも、ブロッコリーもタマネギも入っていて、自分が
ヴァンパイアになったことを忘れそうになる程普通の食事だった。

「おいしい」
「お口に合って、よかったです」
「あの、俺の身体、今どうなってるのか、教えて貰いたいんだけど…」

今俺が、何かを尋ねることができるのはこの人しかいない。
そう思って、聞くと雷覇は困った顔をした。

「すみません、私たちにもよくわからないんです。ヴァンピールがヴァンパイアになる過程が書かれた文献を探してはいるのですが…何しろこの城には人間からヴァンパイアになったものしかいないので」
「俺と何が違うんだ?」
「私たちは死体なので、人間の血を介した精気がないと動けません。死んでいる身体なのです。けれど、あなたや紅麗様の身体は生きています。心臓も動いているでしょう?」

言われて心臓に手を当てると、確かに鼓動が聞こえた。
じゃあ、この人の心臓は?血は流れてないのだろうか。
確かに青白い肌をしているけれど…。

「私たちの心臓は動いていません。血液はただ体内にあるだけで、何かを運ぶ役割などありません」

雷覇は烈火の手を触り、冷たいでしょう、と微笑みながら言った。
冷たいと思うと言うことは、俺が暖かいと言うことだ。
それが、俺とこの人の決定的な差なのだ。

「大抵のヴァンパイア、多分あなたや他の人間が知っているヴァンパイアは私たちのようなものです」
「そっちのほうが多いってこと?」
「ええ、純粋なヴァンパイアは百人に一人くらいでしょう」

唯でさえヴァンパイアの数は少ないのだから、その数は本当に少ないのだろう。
でもわからない。
なんで俺が純粋なヴァンパイアなのだろう。
死んでから生き返ったのに。
それを聞くと、雷覇は首を振った。

「詳しくはわかりませんが…例が少ないので。人間がヴァンパイアとして蘇生する為には純粋なヴァンパイア、私の場合は紅麗様のお力を借りなければならないのですが、あなた方ヴァンピールは自らの力で蘇生するのです」
「俺は、」
「一度に沢山お話しされますとお体に触ります。食べたらお休み下さい」

そう言うと、雷覇は笑顔のまま部屋を出て行った。
俺は食べかけの食事をそれ以上食べる気になれず、悪いと思いながら横に置いてあった棚に置く。
聞きたいことは山のようにある。
どうして雷覇俺に優しくするのか。
紅麗の弟だから、と言われても肝心の紅麗が俺を憎んでるんじゃないのか?
わからないことだらけだ。



俺がベッドから出られるようになるまで、どれくらいかかるのか。
俺の身体は今どうなっているのか。
完全にヴァンパイアになったあと、俺はどうしたらいいのか。

何もわからなくて、俺はただ途方に暮れた。















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「目覚め」終わりです。

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07/07/10