変化










それは綺麗な満月の日だった。
自分の身体の変化の実感はないまま過ごしていた中、ただ綺麗だと思っていた満月の光。

暫く見つめていたら、急に心臓が大きく鳴った。
それから喉が焼けただれるような感覚。
それは餓えのような、渇きのような。

一体なんなのか。
苦しくて床に膝をつく。
なにかが欲しい、んだ。
それが何かなんてわかっている。
けれど、そんなもの欲しくない。

そんなもの、いらない。
それを欲したら、本当に俺は人間ではなくなってしまう。






















とろりとしたものが、口の中へ流れ込んできた。
甘く、どこか懐かしいそれを音を鳴らして飲み込む。

途端感じた、満たされたような感覚。
これはなに?

「もう大丈夫ですよ」
「……あとは頼む」

雷覇の声と…、あれは。
随分前に聞いたことのあるような声がした。
うっすらと瞼をあけると、遠ざかる黒い背中。
あれは、確か。

「く、」

声を出した途端、俺は咳き込んだ。
喉に何かが引っかかったような、先程までとは違う異物感。
そんな俺に雷覇が心配そうな声を掛ける。
起きあがろうとしても、力が入らず、ただ咳をし続けた。

呼びたい名前を口にできないまま、その男は去っていった。











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完全変化。
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07/10/09







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